「 ササユリ」 Lilium Makinoi Koidz


                果実と種子
        実生のササユリから収穫した種子
             188個収穫できた


種子






        種子から発芽        
  
播種してから出芽までの期が長い。
  秋に蒔いて翌々年の春に出芽

  球根を繊維方向に細分割

  ササユリの葉
  このように細長い葉は激減してしまっているようだ。
   (平成3年頃尾鷲市中村山に自生していた)
 球根の切片から出芽     
 球根の切片から育っているササユリ。
          2007年6月現在
 2006年7月24日に花が咲き終わったので1個の球根を掘り出して、鱗片を繊維の向きに細分割し、バーミュキュライトに挿し芽する。   
幅3mmぐらいに30個ほど分割したが1片から2〜3個発芽したものもあったので合計48球が育っている。
ササユリの発芽率は極めてよくほとんど100%成功する。
秋になってから挿し芽しても春には発芽する。

   以前にも「ササユリ」をとりあげているが、今回は残っていたメモなどからササユリに関する資料を付加してみた。
     2001年6月  元海山町の花として指定されていたが、激減してきたので以前に試みた増殖の方法を
              記載した。
               ・  実生による増殖法     ・鱗片による増殖法
     2003年3月  鱗片による増殖法について問い合わせがあり、回答したが検証実験として試みその結果
              を掲載した。

 
 1 ササユリ
   「ササユリ」は本州中部以西の産地に生える多年草本で鱗茎は卵球形である。
  葉の形が笹に似ていることからこの名前がつけられたと考えられる。
  葉の形は皮針形で長さは10cm内外である。  基部は急に鈍形をなして短い柄となっている。
  紀北町では、5,6月頃芳香を放ちながら白色や淡紅色の花を咲かせる。
  茎の高さは50〜1mぐらいまで成長する。
  その清楚で可憐な姿は、百合の仲間の中でも抜群の品格をもっている。  
  元海山町では、その清く美しい町民性を養う意味から昭和53年に「ササユリ」を町民の花として制定している。    
   現在は紀北町の花として指定されている。

 2 ササユリの語源
    ゆれる  ゆらり  ゆり
    寄り    ユリ (鱗片の様子から)
    朝鮮語ではユリのことを「なり」と言うらしい
    Lily

 
3 人とのつながり
    シルクロードの敦煌の洞窟には、500〜800年前から壁画として描かれている。
    ジャンヌダルクの物語  フランスの砦で「オルレアン」を解放する物語では、ジャンヌダルクが神のお
    告げで立ち上がったとき構えていた旗にはユリの花が描かれている。
    日本では、1200年前「古事記」「日本書紀」に「百合」にまつわる物語がある。
    奈良の神社で行われる「百合祭り」(6月17日の三枝祭り)は「古事記」に由来する祭りで700年前(天
    武天皇)から続けられている。
    三枝(さえぐさ)とはササユリのこと、生育のよいササユリは茎の先に3個の花が咲き三輪山に多く自生
    していた。
    祭日の前日に巫女がササユリを集め、当日、神宮が酒樽と壺をユリで飾る。 巫女はユリを持って舞い
    、ユリで飾った花車を氏子が引きなら町を歩く古式豊かな祭りらしい。
    神武天皇がササユリを採る姫に恋したと言われている。 


 
4 日本の野山のユリ
    「ササユリ」 「オトメユリ」 「ウケユリ」 「タモトユリ」 「ヤマユリ」 「サクユリ」 「イワトコユリ」
    「ササユリ」「ヤマユリ」は球根が食べられていた。

 5 咲き方
   ・上を向いて咲くユリ    「すかしユリ」 「ヒメユリ」 「イワユリ」
   ・横向きに咲くユリ     「ササユリ」 「テッポウユリ」 「オトメユリ」
     (ササユリは蕾の時には下向きだが咲く頃には横向きに起き上がる)
   ・下向きに咲くユリ     「オニユリ」 「カノコユリ」

 6 「ササユリ」の増殖を試みた動機
  ササユリは古くから郷土の人々に親しまれ至る所に自生していたが、近年急激に減少し、群生している
  場所がごく限られるようになってきた。  この衰退をみんな大変心配しているのが現状である。
   減少していく原因についてはいろいろな説が出されているが
   ・ 乱獲が原因ではないか?
   ・ 「イノシシ」が球根を食べているのではないか?
   ・ 酸性雨が原因しているのではないか?

 
 しかし、「イノシシ」では到底登れないような海岸の崖に咲いていたササユリも無くなっている。
  また 人が近づけないような場所でも減少している様子から考えるとそう単純な要因ではなく気象条件と
  か土壌的な問題も複雑に絡んで環境条件が変化しているものと考えられる。
  変化の要因は勿論人為的なものと考えられるが、放置しておけば絶滅の危険さえ感じられる。
  そこでこの状態を打破するためには人為的保護増殖をはかり、町民の花として再び脚光を浴びるような状
  態に戻せないかと考えて取り組んでみることにした。

 7 具体的な増殖栽培の計画と方法
  二つの方法が考えられる。
    ・ 「実生」による増殖
    ・ 「鱗片」の挿し芽による増殖
   A 「実生」による方法  
    ・ 1個の花から多数の種子を採集して育てることができる。
    ・ 発芽率も高く株数を増やしていくには最適の方法と考えられる。
    ・ 花を咲かせるのに4〜5年を要するのが欠点である。
  経過
   (1) 栽培のための用土は「バーミキュライト」「赤玉土」を主体とした。
   (2) 種子は、自生しているササユリの種を使える。
   (3) 発芽までの管理は時々散水する。  日光には当てない
   (4) 種子の発芽まで約1年半を要したが発芽率は、100%に近い。 現在は播種から376日で発根(2008年)
   (5) 発芽して1年目は小さな1枚葉であるが発芽後2年目には茎葉ともに増えよく成長する。
   (6) 実生によって成長し最初に開花するまでに4年を要したが、低温処理などで期間が短縮できない
か試みている。
 
 
B 「鱗片」による方法
    ・ 発芽率が極めて高く、発芽後の成長も速いので鱗片さえたくさん入手できるようであれば最も効率
     的で確実な方法と考えられる。 
    ・ 唯一の欠点は、ササユリの球根から採集しなければならないことである。 
   (1) 球根を採集して鱗片を取り出し、一つ一つの鱗片を繊維方向にメスで切り分ける。
   (2) 栽培のための用土は「バーミキュライト」「赤玉土」を主体とした。 (寒天培養基も使える)
   (3) 鱗片から切り出した小切片は用土に浅く植え付ける。
       小切片が隠れる程度でほとんど水平に浅く植え付ける
   (4) 発芽までの管理は用土が乾かない程度に散水する。
   (5) 11月に植え付けたものは翌年5月に発芽し順調に成長した。
   (6) 実生のものと比べると茎、葉はもとより根についても遙かに生長が早く発芽率も100%に近い状態
      であった。  ただ、細い根の広がりや分岐は実生のもののほうが大きい。

 8 万葉集に出てくるユリ
   ・ ともしびの光に見ゆるさゆりの花
         ゆりも逢わんと思いそめてき
   ・ さゆり花ゆりも逢わんと思いこそ
         今の真盛もうるわしみすれ
   ・ 夏の野の繁みに咲ける姫ゆりの
         知らぬ恋はくるしきものそ
   ・ しらるるか野辺のさゆりの花盛り
         茂みがくれも色にでにけり

 9 西洋のユリ
     旧約聖書のマタイ伝の一節には
     「我なんじに告げん、ソロモンの栄華の極みの時だにも、その粧いこの白百合の一にも及ばざりき」
     との記述があり、ギリシャ神話にもしばしば登場するが、やはり白百合は神聖な植物として扱われて
     いる。
     ヨーロッパではユリの花は清純な少女、貞潔な婦人のシンボルとなっていると言われている。
     レオナルド ダヴィンチは科学者としても偉大な業績を残しているが、植物に関する観察も鋭い。
     「受胎告知」に描かれているユリは、自然を愛した少年時代に観察したスケッチが元になっていると言
     われている。 その他の聖母マリヤの絵にもよく白いユリの花が書き添えられている。
     特に「聖告」の天使が持つマドンナリリーは有名である。
     これも激しい香りと色彩を放つユリではなく谷間に咲くササユリではないだろうか。

 10 今後の課題
     「ササユリ」の増殖、栽培については実生、鱗片ともに発芽成長を確認できたが、今後開花までの成
     長管理や成長促進に関わる環境要因などの研究が必要である。
     特に温度管理、光量増減などは成長に大きく関わっていると考えられる。
     また、「ササユリ」には葉の幅が極めて狭いものと広いものがあるが個体変異とも考えられる。
     自生する「ササユリ」の中には品種改良された「カサブランカ」のように11個の花を咲かせるものも見
     かけた。 
     「ササユリ」が減少していくことや個体変異が現れていることは、直接利害につながるものではない
     かもしれないが、地球環境が変化している現在では、一つの生物指標として考えてもよいのではな
     いだろうか

   戯言
   地球環境問題については、二酸化炭素による温暖化が大きく取り上げられてわかりやすく説明されてい
   るが、環境の変化は様々な要因が複雑に絡み合い作用しているので短絡的に単純化していくのは問題
   があるのではではないだろうか。
   「ササユリ」が激減していること、海のようすが変化を続けていることについてもすべて人為的なものであ
    り、高度な知識と技術で深く探求し解明してほしいものである。
   マニフェスト的に短期間で研究の成果を上げられなければ、研究の対象とならないような現状では、悲    
   惨な結果が出るまでは手つかずに取り残されてしまうのだろうか。