宇宙へのカウントダウン
「地球外の知的生命体について」
尾鷲市立天文科学館に勤務していた平成4年に「宇宙へのカウントダウン」論文募集(読売新聞)があり、そこで受賞させていただいたときの論文題名である。
秋の星たちはあまり目立つような明るい星がないけれども紀北町のような環境では小さな星たちもみごとに美しく輝いている。 特に夜半過ぎる頃になると夜空に粉をまき散らしたように隙間無く散らばっている星たちを見ることができる。
本当に小さく感じる地球の存在から宇宙の広がりを感じて、さまざまに思いを巡らせることができる。
論文のことも遠い過去のものになってしまったが、宇宙に人間のような知的生命体が存在するのか? と言う疑問は長い間関心をもたれてきたことである。
NASAでも「SETI(地球外文明の探査)計画」が進められ、プエルトリコのアレシボ天文台の電波望遠鏡(305m)は有名である。 予算を削られた時期もあるが、現在は一般の人たちにも公開されているようである。 日本でもいろいろな研究が進められている。 以前に確か野辺山の電波望遠鏡を見学したときだったと思うが、宇宙空間にいろいろな有機化合物が存在することを教えていただいた。
だから、生命体が存在する可能性は大きく、進化できる環境と時間があれば知的文明を作り出すことも不可能ではない。
宇宙空間にあるゴミのような粒、ガスが集まって星がつくり出されるが、惑星は星の周りを回るディスク状の塵やガスから生まれると言われている。
太陽から太陽系の天体たちが生まれたのもディスク状の星雲のようなものがあってその中から生まれたと考えられている。 太陽系の惑星たちの軌道ががほとんど同一平面上にあることからも想像できる。
宇宙のどこかで惑星に生命が誕生し、進化を続けているかもしれない。
しかし、宇宙の生命体は地球上のものとは全く異なることも想像できる。
分子レベルの小さなものから銀河集団規模に至るまで考えを広げなければならない。 また、生命存在の条件もさまざまである。 地球上でも光が全く届かない場所や熱湯が噴き出す深海でも生命体が存在することを考えると常識の範囲をすごく広げて考察する必要がある。
銀河系内に知的文明がどれくらい存在するのか推測するために作られたフランク・ドレークの式が有名である。 彼は次のように計算する。
N = R
※
fp ne fl fi fc L
N 我々の銀河系内に存在する知的文明の数
R
※
銀河系内で星が誕生する数 (1年間に誕生する数)
fp
その星が惑星系をもつ割合
ne
惑星の数
fl
生命体が存在ことが可能な惑星の割合
fi
高度な文明をもつまでに進化するような生命体がその惑星状に誕生する割合。
fc
生命体がほかの天体と交信を行えるだけの高度な文明をもつ割合
L そのような文明の寿命
不確定な要素が多いので難しいが、何となく理解できる。
論文を書いたときにはさまざまな要因に理由付けをして試算した覚えもある。
生命誕生の条件が整う惑星が誕生し、その生命体が進化する時間も必要である。
変な方向に進化すれば自滅のおそれもある。人類も恐竜ほどに生存できれば本当に幸せだろうと思うが。
現在も耐えない国際間の争い、排他的な宗教観、世界観など困ったものである。
電波望遠鏡による観測によって数十種類以上の星間分子が発見されているがこの中には有機分子もある。
また、太陽系型の星を取り巻くディスクの発見もあり宇宙に生命体が存在する可能性は大きいと考えられる。
いつの日か宇宙人からの電波信号が入ってくるかもしれない。
そんな時に宇宙船地球号は、どんな生命体が仲良く暮らしているのだろうか。
秋とはいえまだ夏の星たちが夜空に高く輝いている。
宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」に出てくる北十字「はくちょう座」もまだ高度を高く保っている。
クリスマスの頃になると西の空に十字架を立ててくれるだろう。
宇宙は、限りなく膨張を続け、すごいエネルギーを持ち続けている。
長々と思いつくまま書き流してしまったが、美しい夜空を眺めているとさまざまなロマンを描き夢見ることができる。
野辺山電波望遠鏡 口径45m 700トン 野辺山天文台で見つけられた星間分子モデル図
野辺山国立天文台は、すばらしい自然環境の中にあり、施設も世界的に有名だが数多くの夢をめざして研究が進められている。
1993年に700トンの電波望遠鏡が静かに動いている姿を見たがここでは宇宙が身近に感じるような思いがした。
星間分子も数十種類見つかっているようだが、宇宙をさまよう有機分子の中にアルコール等が出ていることに驚いた。 できることならグラスに汲んで口づけしたいですね。
1993年6月28日には、小柴昌俊氏が発案計画した「カミオカンデ」(1983年7月に完成)を見学できましたので付け加えることにします。
その時、地下1000mにあるニュートリノ観測装置は宇宙への探求を続けていた。
1987年2月23日マゼラン星雲の超新星爆発によって飛んできたニュートリノが2月28日にこの装置でとらえ検出されたことで世界的に有名になった。 (世界初で絶好のチャンスを捕らえた)
3000トンの水を蓄えた円筒形の装置には多数の光電子増倍管が取り付けられ、そこでニュートリノが捕らえられるのである。
光とニュートリノが16万年かかってここまで来たことになる。 肉眼で見える爆発の光としては383年ぶりと言われている。
小柴氏はその後、2002年にノーベル物理学賞を受賞。
1993年6月28日は、坑道を走るトロッコ列車のような電車で真っ暗闇を走って観測施設に入ったが現在は立派なスーパーカミオカンデが建設され活躍している。
その当時の研究員に物理学の課題など尋ねたらニュートリノ質量の検証と四つの力の統一など語っていた。
素粒子に働く力は四つあり三つをまとめるのが「大統一理論」である。
素粒子物理の最終目標は四つの力を一つの理論で説明することである。
子供たちに質問されることがある。 天体同士が遠く離れていてもどうして離れていかないの?
月は約38万km離れたところから力を働かせて地球の潮の満ち引きを引き起こしている。
太陽は約1億5千万km離れた場所から地球に作用する力を働かせている。
約2千億個ぐらい存在するだろうと言われている銀河系の天体たちは、光が10万年もかかるような距離を隔てていても離れず全体が回転運動をしている。
その力は「万有引力による」としか説明できないが、どのようにしてと聞かれたら物理学者でも答えられないのではないだろうか。 世の中、科学的に検証、解明できない未知の領域がたくさん残されているからおもしろい。
子供たちも大きな夢をもって将来を目指してほしいものである。