「ウラジロ」     ウラジロ科 ウラジロ属
     
    
 少し日射しがあたるような場所で乾燥気味の山肌や切り通しのがけなどでよく見られる。
コシダと同じような場所に生えていることが多いが、紀州地方でシダの群落と言えば最も多いのがこの種類ではないだろうか。  高さが1mぐらいの群生が多いが2〜3m位にのびているところもある。
  葉面は左右二羽片に分かれて各片が50cm以上になることもあり翼状に広がっているのでよく目立っている。
 葉の裏面が白いことから名付けられたと考えられる。
 正月の飾りや生花には全国的に用いられている。
 また、椎茸や松茸のしきものにしたり、葉柄を材料にして工芸品も作られている。
 このほかに東紀州地方では、生魚の敷物にしたり、鰹節薫製の時にも使われたことがあるようだ。
 昔(30年ぐらい以前まで)は子供たちもよく海や山に出かけていたが、その頃はこのウラジロを服などに飾ったり、頭にはコシダなどと一緒にまとったりして遊んでいた。 
 中央の写真にあるような翼状に広がる葉をちぎって、高いところから飛ばすとちょうどグライダーのように滑空する。これは今の子供たちでもきっと喜ぶのではないかと思うので機会があればぜひ試して欲しいものである。
昔、漁村では舟の防腐剤として船底にコールタールを塗り整備していた。 しかし、フジツボや海藻などが着生するので時々舟を陸上に引き上げて船底を焼かねばならないが、このときにもよくウラジロが使われていた。
 ウラジロを山で刈り取り、雪だるまを作るときのように転がすと大きな固まりになって集めることができる。
 それを束ねて船底まで運んで船底を焼くのである。  子供たちの手伝う作業でもあった。
 
 ウラジロの根茎は長く地中をはい、太く径1cmほどになるものもあり、硬い。 葉柄も太くて硬く緑色、平滑である。
 左右両羽片の中間に鱗片の生えた休止芽(暗褐色)ができるが、これが春になるとのびて一段上に左右に開いた葉ができる。このように毎年葉ができるので何年ぐらい成長してきたか推測できる。
 胞子嚢はそろばん玉のような形である。  胞子は三角錐形で模様はない。
シダ類の葉は高等植物の葉とは大きく異なるが、葉全体が羽に似ている。
シダを意味するギリシャ語"pteris"は"羽""pteron"に由来すると言われている。
シダ類に属する植物はPteridophytaと呼ばれているが、phytonはギリシャ語の植物。
したがって、シダ類は、羽植物と言える。
英語のfernは、サンスクリット語parnaにさかのぼれると言われている。
地方名ではヤマクサ、ホナガ、モロムキ、ヘゴ等とも呼ばれている。

戯言
数年前に、ある中学校の教室で「シダはみんな知っているよね」と聞いたらほとんどの子が知らなかった。
冗談だろうと思い他の学年、クラスでも聞いてみたがやはり同じ返答だった。
j時が流れ、生活環境が変わると同じ地域でもこれほど変化してしまうのかと驚いた。
子供たちは故郷の原風景としてどんなものをつかんでいるのだろうか?
自然との関わりは、取り立てて「親しもう!」とか言われなくても暮らしの中で育んでいけるものも多いのではないだろうか。 自然に恵まれた故郷で暮らすのだから身近に見るシダぐらいは当然理解できるような生活をして欲しいものである。