悪沢岳・赤石岳

悪沢岳
悪沢岳山頂

【日 時】1998年 8月11日〜14日(火、金)
【天 候】晴、曇時々雨、曇時々雨、曇時々晴
【山 名】悪沢岳(3141m)・赤石岳(3120m)
【ルート】 8月11日 (09:00)自宅==(17:30)畑薙ロッジ
8月12日 (09:00)畑薙第一ダム==(10:00)椹島--(11:30)小石下--(12:30)清水平
 --(14:00)蕨段--(15:00)駒鳥池--(16:00)千枚小屋
8月13日 (5:00)千枚小屋--(6:00)千枚岳--(8:00)悪沢岳--(9:30)中岳--
 (11:30)荒川小屋--(12:00)大聖寺平--(14:00)赤石コル--(14:30)赤石岳--
 (16:30)赤石小屋
8月14日 (6:00)赤石小屋--(9:00)椹島(10:30)
 ==(11:30)畑薙第一ダム==(11:30)赤石温泉(12:30)==(18:30)自宅
【所要時間】6時間00分、11時間00分、3時間00分
【メンバー 】二人


8月11日

先月、南アルプス南部の手始めとして山伏・七面山に登ったが、主脈への挑戦は初めてである。自宅から井川までは前回来たこともありスムーズに通過する。リムジンバスの時刻については東海フォレストに電話しても留守だったので、直接来てしまった。畑薙第一ダムに着いたのが16:30であった。ここでリムジンバスの出発時間が9:00,12:00,15:30と判明する。

ダムから車で5分程奥へ行くとゲートがありその横に南アルプス指導所があり、静岡警察暑の人が常駐している。ここから奥へはリムジンバスでいくか自分の足で行くしかないことを確認する。また、徒歩で帰ってきた疲れきった様子の下山者の話からすると、途中でリムジンバスに拾ってもらうことはできないようであった。明日から入山する旨を伝えると、登山届けを書いておきなさいといわれる。またリムジンバスは人が集まれば臨時便が出る場合もあるが、9:00にバス停まで来れば必ず乗れるとのことであった。

当初の予定ではとにかく行ける所までいこうということで椹島くらいまでは入れる試算であったが、明日の9:00までどうして過ごすか思案することになった。途中に畑薙ロッジがあったことを思い出し、訪ねてみることにした。畑薙ロッジの駐車場に行ってみると車が4台程度しかないのでだめもとで宿泊ができるか訊ねてみた。時間も5時を周っており、他の泊り客は既に食事にとりかかっていた。主人らしいお爺さんが食事を担当している人と何やら相談していたが、食事もOKということになった。私の持っている山渓の本では素泊まり3050円とだけ記載されていたので、食事はなしだと思っていたが、一泊二食で税込み5465円であった。食事は普通の民宿より豪勢で鹿の刺し身などもでてきた。部屋は10人用の2段ベッドを2人で使わせてもらった。他の泊り客は赤石温泉や釣りが目的のようで、山登りは私達だけだったようだ。妻は先週の奥穂高の山行で足にまめをつくってしまったのでその対策に余念がなく、私は金曜に高熱を出したので体力回復に努める。いずれにしても山に入る前にこれほどゆっくりしたことはない。(ここには、南アルプス連絡協議会が発行した平成10年度南アルプス登山・観光情報という冊子があった。バスの時刻表や山小屋の情報などが記載されていた。長谷村・大鹿村など南アルプスに含まれる市町村の観光課等が共同で発行したもののようであった。ネット上でこういう情報が検索できればなあという思いであった)

8月12日
夜明け前から数十台車が上がっていく。7時30分頃から食事をとる。8時30分頃畑薙第一ダムに着く。既に2台のリムジンが満員の模様である。身支度を整え、椹島から来た3台目のリムジンバスに乗り込む。料金は2000円だが、東海フォレストが運営する山小屋を利用する時この切符を示せばこの料金が返ってくる。また、宿泊のレシートを示せば帰りのリムジンは無料で乗車できるというシステムになっている。バスは満員になったので定刻より早く出発する。運転手と無線で交信している人の話が聞こえ、最後のバスは定刻まで待ったが十数名積み残してしまった模様である。静岡から静鉄バスを利用された方は待たされることになったようである。

聖岳登山口や赤石沢で下車する人もいて椹島まで1時間を要した。時刻も10時をまわったので荷物を確認し出発する。車道まで登り返し標識に従い滝見橋に向かう。滝見橋の手前の梯子から右岸を遡行する。下山者が重い荷物にも拘わらず勢いよく下ってくる。暫くすると吊り橋を渡り左岸に取っ付く。緩い登りであるが、病み上がりでもあるので30分ほどで一服する。他の人は気合が入っているようで勢いよく追い越していく。ここからやや急な登りとなり1時間ほどで小石下に着く。他の人達は登り始めて1時間ほどのところで一服していたようだ。

小石下は北側が開けていたが2800m付近から雲がかかって眺望はえられなかった。この山行中は眺望に関しては全てこのような状況であった。小石下からしばらく平坦な道となるが、清水平近くになるとやや急な山道となる。清水平は坂の途中にあり他の登山者も皆ここで昼食としていた。本日唯一の水場であるが、登山者がいなければ見落しそうな所であった。美味しい水で昨日、井川で仕入れたおにぎりを食べ水筒に水を満たした。

地図では蕨段から千枚小屋まで3時間となっていたので、気を引き締め出発する。清水平から蕨段まではやや急な登りが続く。蕨段の前では犬を連れた登山者と出会う。蕨段は壊れかけた測量杭があった。ここからは比較的なだらかな道となる。展望岩で一息入れ、上まで行かず少し登った所で休憩していたら、上の方から二人が降りてきた。道を塞いだかっこうになってしまった。ここでも期待した眺望は得られなかった。

暫く進むと急な登りとなる。駒鳥池では先程の二人組が休憩していた。大きな倒木が池に横たわっていた。今まであまり変化のない樹林帯の中を通ってきただけに少しほっとする景観である。ここまで来ると千枚小屋まではあと1時間の距離である。

井川で仕入れたパンなど本日の行動食を腹に収め千枚小屋を目指す。ぬかるみの多い場所など緩い傾斜が続いた後、お花畑が現われ始めると小屋も近くなるが、斜度もきつくなる。まだまだこの道が続くのかと思った頃、林の上に赤い屋根が視界に入ってあっけなく小屋に着く。昨日の充分な休養と自重しながら歩いたので明日からの長丁場にも少し自信が持てた。

小屋に入り宿泊の手続きをする。朝早いと考えて朝食・昼食を弁当にしてもらう。部屋は最初2階部屋に割り当てられたが、人数も確定した夕食時に再配置をしてくれた。入り口の近くであったが5人で一区画をつかいことになり、ゆったり寝ることができた。行動中一度も雨に当たらなかったが、小屋に到着後、まもなく雨が降り出した。雨は一時的であった。小屋からは笊ヶ岳など南嶺の山がきれいに望まれ、その背後に富士山も展望できた。富士山に登る人達のライトが造り出す光の帯を期待して夜起き出してみたが、残念ながら、ここからだと登山コースの側面に当たり見えないことがわかった。

私達の横に寝たおばあさんと話をかわしたが、彼女の今回の山行の目的は百名山を完結することであることを聞く。予定では悪沢・赤石・聖・光で完了とのこと。易老渡にタクシーも予約しているとのことであった。単独ではあるが他にテント泊の単独者達と同行しているとのことであった。話を聞いていくと佐武流山やぺテガリにも登っているようで、なかなかの猛者であることが判明する。

小屋は最近建てられたもので大変きれいであった。水はトイレの前にありテント泊の人と共用である。夜間は流石に冷え込み着替えをTシャツにしたのは失敗であった。消灯8:00。

8月13日

4時頃から出発者がガタガタし始めた。4時30分頃起床。朝弁当の一つを小屋の前で食べる。5時出発。小屋では丁度朝食が始まっていた。お花畑の急な坂道を登っていくと二軒小屋からの道と出会う。椹島での情報ではこの道は途中に崩壊した箇所があり現在使用できないとのことであった。木の背丈も低くなり、岩屑帯の道を暫く進むと千枚岳に到着する。ものの本によるとここからも素晴らしい景観が得られるはずであるが、本日はここから上は雲の中である。背後に見える笊ヶ岳や富士山をビデオに収める。本日眺望が得られるのはここまでで見納めのつもりで出発する。ここからの行動はまさに五里霧中であった。

少し下り、丸山の取付きまでは痩せた尾根が続く。丸山へは広く緩い岩屑の道を登る。丸山からは風も強くなる。ガスってはいるが、視界は20〜50m位はある。おなじような広い道を進むが、やがて大きな岩の岩稜帯に入り、暫く進むと呆気なく悪沢岳山頂にでる。時折強い風が吹く山頂で記念写真とビデオを撮る。視界の期待できない山頂で他の登山者も記念写真を撮りそそくさと頂上をあとにするものが多かった。

悪沢岳から中岳に向かうがいきなり急な下りになった。中岳方面からの登山者とも出会うがコースが逆であれば大変だろうと想像させられた。足場が濡れており、岩場では慎重に行動した。鞍部から中岳は緩やかな登りであった。中岳避難小屋で一休みする。中には二人組がインスタントラーメンを作っていた。ストーブがあり席を替わってもらった。地図を確認し中岳に向かう。中岳で記念写真を撮り先を急ぎ主脈の道に到達する。前岳は気候が気候だけに取りやめる。

ここから荒川小屋、大聖寺平を目指すのだが急な下りでどんどん高度を落としていく。途中道が二手に分れる部分があり迷うがペンキマークを確認し下からの登山者とも出会う。晴れていれば何の問題もない箇所である。暫く下ると水場が現われたので、ここでもう一つの朝弁当を食べる。ご飯の上に焼鮭・昆布をのせ巻卵と煮た蕗などがあった。赤石小屋から登ってきた夫婦が、弁当の中を覗き込んで「美味しそうな弁当ですね。私達はおにぎりでしたよ」といわれた。千枚小屋は途中まで林道が入っており荷揚げ能力の差がなせる業かとも考えた。道の傾斜などを考えても千枚・赤石小屋の周回ルートを取る場合、千枚=>赤石小屋廻りが正解だと思う。

腹を満たし出発するが、道なりに進むと荒川小屋に出てしまった。地図によると荒川小屋をバイパスする道も記されているのだが。小屋では途中で一緒になった人達も休んでいた。小用をたし、出発するがここからの登り返しがきつく感じられた。大聖寺平あたりでは風が強く雨まじりになったので雨具を付けることにする。やっと赤石岳の登りに取っ付いたのだが、急な登りで息も絶え絶えになった。少し平らな場所で休憩をとる。降りてきた登山者に聞くと小赤石までは40〜50分程かかるとのことであった。急な岩屑状の道を小赤石を目指して進むが、ピークのような所を2〜3箇所通り過ぎたことは分ったが小赤石とは判明でかなかった。そのまま暫く進み少し下りになった所で前からやってきた登山者に聞くと赤石小屋の分岐はすぐ先であるという。

分岐ではデポしたザックが沢山おいてあった。視界も十数mとなり雨も横殴りで少し痛く感じられる状態となった。当初の計画では百間洞まで行き聖岳を目指す予定でいたが、明日の天気も保証できない状況であったので赤石岳をピストンすることにした。百間洞は今回の山行の目的の一つでもあったが、残念だがまたの機会とする。赤石岳までは風が益々強くなった。途中、高山植物を見かけたが長年の知恵か、彼らは雨風を避ける場所を選んで咲いているように見えた。またこの風のせいか雷鳥も飛び出してきた。

山頂は2〜3m位の大きな標柱が立っていた。妻は記念写真を撮り、先を急ごうと考えていたようだが、5人組の中高年の女性が登ってきてカメラのシャッターを押してくれるよう頼まれる。5人組の中には千枚小屋で会った百名山完登のおばあさんもいたようだった。しかし、この風雨の中で彼女達はまるで楽しんでいるかのように見えた。南アルプスに来る人はやはり猛者が多いと感じた。避難小屋や百間洞への道も確認せず、すぐに下山にかかる。

赤石岳
赤石岳山頂


分岐に戻ってみるとデポしたザックの数も少なくなっていた。分岐から赤石小屋への道を下る。少し下れば風はなくなった。風は稜線だけだった。沢沿いに道は一気に下っておりこのままずっと下り続けると思っていたが、途中から沢を離れ長いトラバース道となった。南側は晴ており、笊ヶ岳などは完全に晴れていた。トラバース道は下り道ではなく寧ろ富士見台までは登り返す道となっていた。赤石小屋までは標高的に全体に下りであろうと考えていたのでこの登り返しはこたえた。やっとの思いで富士見台に着いたときはほっとした。朝、千枚岳で見た視界が戻ってきた。雨具を脱ぎすぐ下にみえる赤石小屋へと急ぐ。

小屋へ着き宿泊手続きを済ませる。明日の予定は下山でベッドは下山グループの区画であった。雨で私達と同じ選択をした人も多いようで下山グループのベッドは満員だった。小屋の入り口にストーブが焚かれいたので雨具を乾かせる。小屋全体は綺麗である。食事は千枚小屋に比べると少し劣るが、荷揚げ能力の差を考えるとリーズナブルなものであろう。食事を済ませ、備えてある図書を読む。本日歩いたコースの写真集を見て改めて「晴れていればなあ」という思いが募る。再度挑戦しなければならないのか。消灯は7:30。

8月14日

本日は下山である。朝から雨模様である。椹島からのリムジンの出発時間は7:30,10:30,14:00である。10:30のバスに間に合えばよいということで、食事をゆっくり済ませ6:00に出発する。この時間になると宿泊者は殆ど出払っていた。雨がしとしと降っているので上下とも雨具を付ける。本によると3時間の行程となっているが下りのみである。途中足を引きずっている人や何やら怪我をしたような人がゆっくり歩いていた。私達は先週の奥穂のこともあり、少し余裕を持って歩を進める。

時間通り10:00少し前に椹島に到着する。売店でリムジンの受付をしており、宿泊のレシートを渡すと番号札をくれる。この順に乗車してくれとのこと。下山してきた人の殆どは、売店で生ビールを注文していた。私はKが買ってきた牛乳を飲み干す。久しぶりで美味しい飲み物にありつけてほっとする。今までの雨天がうそのようにここでは太陽が照り付けている。バスに乗り赤石沢にかかる所で、上を見ると立派な赤石岳が望まれた。「あっ、赤石岳が見える」と誰かが叫ぶと車内から「あ〜」という溜息とも何ともいわれぬ歓声が洩れる。乗り合わせた殆どの人が同じ思いなのかなあという気がした。

畑薙第一ダムに戻り、赤石温泉を目指す。温泉は観光客と下山者で溢れんばかりであった。浴槽は二つあり源泉とその湯と繋がった温めの湯があった。温泉は無料で食堂と休憩所があった。千枚小屋で作ってもらった昼食の弁当を休憩所で食べる。チラシ寿司に鮎の甘露煮がのっていた。暫く休んで、暑い暑い自宅への帰路につく。




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