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            日常の風景   NO.0011
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偶然の旅

つまらない、けど大切な用事があったので、
くるまに妻を乗せて、琵琶湖岸を走っていると、
急にお手洗いに行きたいと言い出した。

男ならこんな場合、なんでもないことが、やはり女性はちょっと大儀である。
「プリンスホテルに寄ろうか」
わたしはふと思い浮かんだ、琵琶湖岸の高級リゾートホテルの名をいった。
「いやや、わたしこんな格好やし」
普段着のジャンバーの襟元を両手で広げて彼女はそういった。

「簡保センターはどうやろ」
結局、妻の提案に従って郵便局の簡易保養センターの立ち寄ることにした。
センターの入り口に、「日替わりランチ」などと
割に気楽な立看板が掛かっているのに気がついた。

「ついでに、ここで食事もしていこうよ」
ちょっとだけ気が引けていたふたりであるが、
そうと決まれば、もう立派なお客様である。
堂々と玄関のドアを開け、フロントのお嬢さんともにこやかな会釈をかわす。

明るくて広々としたロビーの中心に、
ギリシャ神殿をイメージしたような巨大な円柱があった。
その回りを取り囲む淡いピンクの絨毯。

オープンスペースの喫茶コーナには香ばしいコーヒーの香りがただよい、
みやげ物コーナには浴衣にどてら姿の泊り客の姿があった。
わたしは、まわりの雰囲気に気分がうきうきとしてきた。

レストランは2階にあった。
ぐるりと一面が透明のガラスで、琵琶湖のパノラマが一望できる。
明るいとても感じのいいレストランだった。
定食はわずか1000円ほどであった。

食事をしながら、わたしは飽きることなく琵琶湖に目を凝らした。
いつも琵琶湖をみているくせに、
久しぶりにこのみずうみと対面したような気がしていた。

濃い雲がたちこめている割には、
対岸の比良山脈や、今津の町までがすっきりと見える。
山々は、淡い群青色の山肌に真っ白な雪がまだらに積もり、
かすりの着物のように見えた。

長浜も見えた。豊臣秀吉が精魂込めて作った町である。
雲の間から木漏れ日が長浜の町を、幻想的に照らしていた。

「いい町に住んでいるのだわたしは」と偶然の旅を楽しみながら、
しみじみと思った。


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