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            日常の風景   NO.0007
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除夜の鐘

ゴーンという除夜の鐘がごくそばで大きく響いた。
家の近所にあるこの神社は同一敷地内に、お寺と神社とか並立している。

初詣は後ということにして、
鐘の音に誘われるように、隣の寺に足を向ける。
寺の境内でも、廃材をどんどん燃やして大きな焚き火をしている。

風はない。火柱と煙とがまっすぐに闇を切り開いて、天に伸びてゆく。
焚き火のアンバランスなぬくみは格別なものがある。
少年時代のノスタルジーを感じるのである。

人の列があった。除夜の鐘を突く順番を待っているのである。
わたしもこの列に加わった。

この寺の鐘は普通のオープンスペースではなく、お堂の中に鐘がある。
お堂は神輿のような飾りのある切妻の屋根になっていて、
むかしはさぞかし立派な建物であっただろうことは忍ばれるが、
いまはほとんど朽ちかけている。

鐘が突かれるのも年に一回、この除夜の鐘だけである。
やがてわたしの番になった。

茶室に入るときのように、小さな入り口から、見をかがめて中に入る。
回りの壁土がところどころ崩れ落ちて、
壁のなかの竹や荒縄がむきだしになっている。

そして中央には、寒寒とした裸電球ひとつに照らされた大きな鐘。
アルバイトらしいふたりの若者がいた。
ひとりは手にカウンターを持っていたから、
108回を正確に数えているのであろう。

もうひとりは、鐘を突くタイミング係らしい。
タイミングあんちゃんが「どうぞ」とぶっきらぼうに言ったので、
2回のモーションをはさんで3回目に思い切り突いた。

低い重厚な音が、鐘突き堂から外に向けて響き渡った。
わたしの鐘の音だけは特別な響きのような気がした。

外に出ると、お堂のすぐ横に、樹齢何百年といわれそうな、
大きないちょうの木がすっくりと立っている。
いちょうの木に沿って先端まで見上げると、
天空に煌々と満月が輝いている。

満月は大きな笠をつけていた。
お月様の笠のなかに、ひとつだけ星がかがやいている。
月のひかりに負けないようにと、きらきらとかがやいていた。

あの星は、パンドラの箱のなかにたったひとつ残されていた
「希望」なのかもしれない。

耳を澄ますと、あちこちのお寺から除夜の鐘が響いている。
しろい息を吐きながら、背中に焚き火のぬくもりを感じ、
満月と、お月様の笠と、希望の星とを見上げながら、
除夜の鐘を聴いていた。



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sceneryの風景

みなさん、あけましておめでとうございます。
今年も、「日常の風景」よろしくお願いいたします。

元旦の旦という字のの下につく一は地平線を表わしているのですって、
みなさんご存知でした? わたしは知りませんでした。

だから旦という字は、
すなわち、太陽が今まさに地平線から昇る様子を示しています。
旦という字は朝と言う意味なのです。

だから、元日の朝という言い方はあっても、元旦の朝という
という言い方はちょっとおかしいかなということになります。
日本語大切にしたいですね。

年末のテレビ番組で、イチローと新庄はどちらが日本人的かという、
ちょっとしたディスカッションがありました。

最後の結論らしきものは、両方とも日本人的というものでした。
イチローは「能」新庄は「歌舞伎」どちらも、日本人が、昔から
持っていたものじゃないかというのです。

そういえば、みんなストイックに黙々とがんばるときもあれば、
饒舌に派手なことをするときもあり、「能」の面も「歌舞伎」の
面も両面備えているのが、日本人なんだなと妙に納得してしまいました。

わたしも、今、すこしお神酒が入っているので、
いつもと違ってすこしおしゃべりなのです。お許しください。



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