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            日常の風景   NO.0006
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クリスマスの贈り物

担当者とは充分に打ち合わせ済みのはずであった。
5台のパソコンにバージョンアップしたプログラムを
インストールするしごとである。

日中はパソコンがフル稼働しているので、
夜に、それも残業の時間も見越して、作業をすることになっていた。

手順書を用意し、具体的なパソコンの位置も昼の間に確認した。
準備は万全の筈であった。

時間が来たので、8階から目的の1階の営業の部屋に行こうと、
エレベータで降りてくると、日中とは雰囲気ががらりと変わっていた。
いつもはにぎやかなロビーに人気がまったくなく、薄暗い。

自分の靴音だけが奇妙響き渡り、くうきの密度が濃く、重い。
心細いような不安なきもちを抱えて、とにかくドアの鍵をあける。

なかに入ると、部屋の中は真っ暗だった。
そこまできて、やっとわたしは、
昼間に電気のSWの場所を確認しておかなかったのに気がついたのである。

真っ暗な部屋で、まるでやもりにように両手を広げ、
壁のあちこちを手探りで確かめると、それらしきものの感触があった。

恐怖と不安感とで極限状態に達していたわたしは、
迷うことなく、そこにあるすべてのSWを壁に両手を押し付けて、
オフからオンに入れた。

そのとき奇跡が起こったのである。

突如、暗闇にひかりが射し込み、
設置してあるクリスマスツリーにいっせいに灯がともり、
ジングルベルが軽快に流れ、
赤い服を着たサンタがにこやかにわたしに手を振っている。

やがて、クリスマスツリーは幻想的にかがやき、
イルミネーションが点滅を始めた。

わたしのためだけの、クリスマスツリー。
わたしのためだけの、サンタの微笑み。
わたしのためだけの、ジングルベル。
わたしはあらためて、余分な蛍光灯の明かりを消し、
いすに腰をおろしたまま、しばらくクリスマスの贈り物を楽しんでいた。



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sceneryの風景

この風景は最近のものではありません。
わたしの手帳のなかにメモされ、眠っていた風景です。

5、6年前、わたしがまだプログラマーをしていたころのお話です。
でも、毎年のクリスマスが訪れるたび、この日のことを思い出します。

「日常の風景」たぶん今年はこれで最後だと思います。
みなさん、いいお年をお迎えください。
来年もよろしくお願いいたします。



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