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            日常の風景   NO.0018
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真夜中の露天風呂

夜遅くなって露天風呂入った。
芦原温泉の大きな観光ホテルの露天風呂である。
もう、零時に近かったため、
湯船に沈んでいるのはわたしひとりである。

湯船の底は、熱帯の深海に日が差し込んできたような、
深くて、それでいてあかるい紺碧のタイルと、
那智黒のような、黒い岩がバランスよく配置されている。

湯船の岩に頭をゆだねて、思い切りからだを伸ばすと、
ほどよいビールの酔いも手伝って、からだの芯からくつろげる。

この露天風呂は、天井がすこし変わっている。
アルミ張りになっていて、鏡のように映るのだ。
でも本物の鏡ほどではなく、磨かれた古代の胴鏡のような感じである。

それに風呂の湯気も立ち上がっていてそれほど何もかもが、
はっきりと映っているわけではない。

上を見上げると、ほかには誰もいないので、
大の字に、四肢を伸ばしてリラックスしている私が、
ぼんやりと映っている。

天井のアルミ張りは、一枚になっていて、そのまま、
女性用の露天風呂にもつながっている。

そして、そのときふとひらめいたのである。(ひらめかなくてもいい)

露天風呂はよく手入れされた、広葉樹の庭に続いている。
湯船を出て、庭の向こうから天井を見れば、
女性の露天風呂が映るのではないだろうか?

こういうつまらない考えは、幾つになっても、
すぐに実行してしまうのが男のバカな本性である。

ラッキー。

予想通り、天井には女性の裸身がひとつ、
白く、優雅に、幻想的に映っている。
時々、動くので間違いはない。

それほど若い女性ではない。(そのはずである)
かといって年寄りでもない。(そうだと思う)
多分、40歳前の人妻である。(それに違いない)

「ずいぶんと肌に張りがなくなったわ」
彼女は、湯船の中でしげしげと手のひらをくるくると回しながら、
つぶやいたのであるが(動作は、そんなしぐさだった)
天井に映る人妻は充分にまだ若くて、白くて、弾力のある
透き通るようなきれいな肌をしていた。

想像を膨らませているうちにすっかり冷え込んでしまった。
まだ4月である。北陸の夜中は底冷えがする。

ぶなの木のそばで、体に濡れたタオルいちまいだけを巻きつけて、
凍えながら、ふと、空を見上げると、
北斗七星が瞬いている。

しみじみと夜空を見るのも久しぶりだなぁと一瞬の感慨の後、
再び天井に視線を戻すと、
人妻の姿は湯煙のなかにとけてしまったかのように、
もう影もかたちもなかった。



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sceneryの風景

ただ単に「温泉へ行く」とだけ言えば、
その人が住んでいる地方によって、その温泉地は、
ずいぶんと異なるはずである。

滋賀県で温泉といえば、ふつうは北陸温泉をさす。
隣の県の有名な温泉ということもあるだろうが、
雪の深い、湖北地方に天候が似ており、なんとなく
近江の人には、北陸地方に近親感がある人が多い。

この間、高校時代の友人と、片山津温泉に来たばかりなのに、
今度は家内と、また、北陸温泉に来てしまった。

理由のひとつはデフレである。
わたしが、今回泊まった観光ホテルも、
昔なら、ひとり2万5000円から、
3万円もかかっていたような大ホテルである。

それが、新聞にひとり9800円とあった。
ふたりだけで宿泊しても、この値段。夕食のごちそうも、
宣伝してあったとおりのものが出た。

新聞を見ているとあちこちに、似たような企画がある。
わたしは、今年は2ヶ月に一回温泉に行くことに決めたのである。

実際失業していて、生活にさしさわりのある人には、
申し訳ないような気もしますが、
デフレだといって、気持ちを萎縮させるより、
デフレを楽しむ気持ちの余裕のようなものが、
今の日本にはいちばん必要なのではないでしょうか。

そして、そのようなひとりひとりの余裕が、
めぐりめぐって失業者のためにもなると思うのです。

ちなみに、わたし自身もこの5月からリストラです。
すぐに失業というわけではないのですが、
給料が3割もカットされます。

でも、いい機会だと前向きにとらえることにしました。
会社をやめたらあれもしようこれもしようと
思っていたことを、一足早く実行するつもりです。



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