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            日常の風景   NO.0015
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桜の御簾

桜のつぼみがすこしふっくらとしてきたが、
花弁を内に封じ込めている緑の衣は
まだ固く、鋭く、尖っている。

いつもの通勤途上の遊歩道である。
そんなとき、首をかしげて、ふと彦根城をながめた。

中堀の石垣上に、桜並木がある。
並木越しに見る彦根城が、いつもとはすこしちがって見えた。

桜の木々全体に薄いピンクのもやがかかっているのである。
つぼみはまだ、こんなに固いのに、
内に秘めた桜の霊気が大気に放出されている。

何の脈絡もなく、わたしのなかで、時代劇のあるシーンが頭にイメージされた。
それは、御所の御簾のなかで鎮座している天皇の姿であった。

儀式と、御簾がなければただの人である天皇が、
御簾というスクリーンを間にはさむことにより、
高貴さをみごとに演出していた。

わたしはそんな彦根城を立ち止まってしばらく見ていた。

複雑に入り組んだ、桜の枝々の御簾、空間を埋める薄桃色の大気。
それらを透して見る、この時期のお城が、
いちばん高貴な輝きを放っているのかもしれない。

立ち止まったこの位置からは、もうすぐ、高貴なものは、
満開の花の向こうにお隠れになる。



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