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            日常の風景   NO.0013
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ためらい

電車で通勤するサラリーマンは、
だいたい毎朝じぶんの乗る車両をかたくなに決めている。
そして、すわる座席さえも指定席のように
固定しているひとが多い。

わたしは進行方向に向かって通路側に座るのが好きだ。
その人は毎朝窓側でわたしのななめ前に座る。

管理職だろうか、襟元がすっきりとした濃いグレーの背広に、
いつも鷲が羽を広げたような
金と黒の会社のバッチをひからせている。
年齢は五十過ぎ、小太りで、べっこうの眼鏡をかけている。

毎朝、乗る駅も同じ、乗る車両も同じ、座る席も同じ、
だが、挨拶も交わしたことはない。
おたがいに無表情で座るなり、その人は新聞、
わたしは小説を読む。

そして、約一時間。わたしの降りる駅のひとつ手前の駅で
その人は降りていく。

だが、きょうその人はいつもの駅で降りなかった。
腕組をした左手に、棒のように細く折りたたんだ新聞を持ち、
くちをちいさく開けて、眠っている。

きょうは出張だろうか?
起こしてあげようか?
と、ためらい、迷っているうちに発車のベルが鳴りひびいた。

その人は眠っている。
わたしが次の駅で降りても、まだ 眠っている。
眠っている。
軽い、いびきをたてて・・・



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sceneryの風景

わたしが、電車通勤をしていた頃の日常です。
毎日の通勤でも、目を凝らしていれば、いろいろなドラマがあるものです。

手帳に走り書きがしてあると、数年経っていても、
まるで昨日の日常のような気がします。



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