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            日常の風景   NO.0037
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遊ぶ風景

縦にした石臼を挽くような、重いハンドルがついている。
そのハンドルをゆっくりと回すと、やがて、カチャというちいさな音がして、
ハンドルが急に軽くなる。
上のロックが外れたのだ。

前号「鳩のフレーム」の話に出てきた、廊下と、
搬入口を仕切っている扉を開けるときの、儀式である。

冬でも、風のないおだやかな日は、わたしは、この扉を開けて、
搬入口のベランダに立つのが好きだ。

たばこを吸わないわたしにとって、ベランダに立って、
目の前の、彦根城、右手遠方に見える伊吹山、そして、
波のきらめきで消えそうに見える琵琶湖の多景島。
このような風景をぼんやりと見るのが、最大の気分転換になる。

職場の近くに、カトリック系の幼稚園がある。
ベランダに佇んだ途端、その幼稚園から、子供たちの甲高い歓声が、
まるで、音楽のように聞こえてきた。

電車や浴場などの密閉した環境で聞かされる、数人の子供たちの騒ぎ声は、
耳障りな雑音以外、何者でもないが、今日のような青空のもとで、
元気に遊んでいる大勢の子供たちの声、笑いは、
姿は見えなくても、生命力と、躍動感にあふれ、
どんなシンフォニーにも勝って、元気をくれる。

ふと、彦根城のはるか上空を見上げると、5羽のトビが、
上昇気流をとらえて、上にいったり、下に沈んだりと悠然と滑空している。
羽をはばたかせることなく、ぴんとひろげたまま、
丸い大きな円を描く、グライダーのような飛翔。

あんな高いところに、えさなどがあるわけはない。
トビ達も冬の穏やかな陽に誘われ、間違いなく遊んでいるのだ。

額に汗して働く風景も悪くはないが、わたしは、このような
無心に遊んでいる風景を見るのがほんとうに好きである。



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sceneryの風景

わたしのBBSに、メールマガジンの読者になりたいとの
書き込みがあった。
こういう、メッセージはほんとうに作者を勇気つけるもので、
うれしいものです。早速手続きを勇躍完了。

その人からのメールの返信が、仮にAさんとしておきます。
すこし話題になりそうなので、
Aさんには断ってはいないのですが(Aさんごめんなさい)
一部を紹介させていただきます。

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昔、フローベールは弟子のモーパッサンに
「外に行って石ころを二つ拾ってきて書き分けてみなさい」と言ったそうですが……
・・・石でなくてもいいのですがsceneryさんの「書き分け描写」技術を
お見せいただければ有り難いとおもいます。
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道端の石ころをふたつ拾ってきて、それを文章で書き分ける。
それほど、難しい主題ではないと思います。
難しくないと、宣言したからには、具体的に見本を見せるのが、
当然なのでしょうが・・・

もし、わたしが、そのようなテーマで、石を探しに行くとします。
多分、何気なく拾うような振りをして、
書くエネルギー以上に、石そのものを選ぶことに神経を集中するでしょうね。

そうして石の形、色、模様、光線のあたりぐあい、影、等々、
たとえ石ころでも書くことはいくらでもあるはずです。

でもこれは、デッサンのようなもので、
いくら描いても、読んでいて、おもしろいものではないですよね。
読者がおもしろいと感じるのは、客観的な事実よりも、
感覚的、主観的な思い入れのようなものだとわたしは思うのです。

だから、石ころを書くにしても、その場の空気、匂い、風、音、
そして、その石から、連想するその人の思い出のようなものに膨らませれば、
たとえひとつの石ころでも、見事に生きてくるのではないでしょうか。

そして、そのようなことこそ「日常の風景」が、めざしているものです。
えらそうに講義をするほど、うまくいっているとは思いませんが、
めざす理想はそうなんです。

今日はなんか、壇上からの先生口調で、まことに申し訳ありません。

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文章がうまくなりたいと思っている一般人です。
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との、最後のコメントでしたので、参考になればと走り書きをしました。



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