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            日常の風景   NO.0022
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ほたるを見に行く

生息地に近づくにつれて、だんだんとまわりから、
人工的な夜のひかりが少なくなって行くのが、
ちょっとふしぎな感じだった。
ひとの流れに沿って歩くうちに、まわりの闇はますます深くなってゆく。

やがて、数匹のほたるが、点滅を繰り返しながら、
人々の頭上をゆっくりと飛んでいるのを発見した。
「あっ、ほたる」
無意識に声がでる。

意外なことに、ほたるを鑑賞する場所は森の中の、
わずか1メートルほどの川幅しかない小川だった。
涼しげなせせらぎの音がちいさく絶えず聞こえているので、
かろうじて、小川だと闇の中でもわかる。

小川のほとりにベンチがあった。
ここで貴重な数匹のほたるを鑑賞するのだと、喜んで座ったが、
ふと、視線を左の方にめぐらせると、
多くの見物人の間を縫って、淡いひかりのかたまりが目に飛び込んできた。
数千匹のほたるの群れである。

ベンチを後にして、すこしづつ淡い神秘的なひかりの群れに近づく。
小川の向岸の草むらの中に、源氏ボタルの光の粉が撒き散らされている。
まるで、天の川が草むらに寝そべっているような、
幽玄と幻想のひかりのシンフォニーである。

びっしりと生い茂った大木の葉の裏にもかなりのほたるがとまっている。
高いところだと10メートルはあるだろう。
向上心の高い数十匹が放つ光はほたるの昴のようである。

草むらからは、絶えず、ほたるがとびたっていて、
ごく近くまで挨拶にくるのであるが、手を伸ばしても
どうしても届かない。無理にほたるのひかりを手に入れようとすると、
前の人を小川に突き落としかねない。

ほたるの神秘に触れたい。蠱惑的なひかりを自分だけのものにしたい。
そんなわたしの願いが通じたのか、
奇跡が起こった。
一時的にかなり激しい雨が降ってきて、わたしの前から人が消えたのである。

両肩はすっかり濡れてしまったが、
そのおかげで小川のほとりに立つことができた。
さえぎるものも何もなく両手を自由に動かすことができた。
目の前のほたるをにそっと両手で包み込むようにしてとらえる。

指のあいだから点滅するひかりがこぼれる。
両手の親指をすこしずつずらせて、覗き込んでみた。

何が見えたと思います?

宇宙が見えたのです。
ビッグバンから0.0000000001秒後の原始宇宙。
一点にひかりがあって、宇宙全体が、
わたしの掌に納まってしまうぐらいの大きさ。
現在の宇宙も確かにこんな瞬間はあったはずです。

わたしに宇宙を見せてくれたほたる。
両手をそっと広げると、すぐに虚空に飛び立ち、
淡い光の洪水の中で、もう個体としては見分けがつかなくなっていた。



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sceneryの風景

彦根市からくるまで約1時間。
山東町のほたる祭りは6月上旬から、中旬にかけて行われています。
山東町の源氏蛍は国の特別記念物に指定されているほど、
地元では有名です。

例年以上にほたるの数が多いという地元の人の話でした。
わたしが子供の頃は家のまわりに蛍が遊びにきてくれていたのですが・・

JR米原駅からタクシーで20分。
JR近江長岡駅から徒歩10分。
名神高速 米原ICから10分。
     関ヶ原ICから10分。
     長浜ICから15分。
と、もらったパンフレットには書いてありましたが、
実際はもうすこしかかると思います。

時間が許せば、ぜひ見に行くことをおすすめします。
数千匹のほたるの神秘的なひかりの点滅は、
人の気持ちを、太古の時代にまでさかのぼらせ、
謙虚にやさしくするような気がします。

例外なく、みんなそっと捕らえたほたるを、夜空に再び放っていました。



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