*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*
            日常の風景   NO.0023
*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*

丘の向こうの静寂

展望台のある小高い丘から眺めると
起伏にとんだカルスト台地が、
360度のパノラマとして雄大に広がっている。

ここは山口県の秋吉台。
ずっと昔、訪れたことがあるはずなのだが、
記憶にはまったくない。
ふしぎなことに一度訪れたという記憶だけが鮮明に残っている。

写真などで見ると、カルスト台地といえば、
剥き出しの大きな石灰岩があちこちにごろごろとしている、
荒々しい風景というイメージがあったが、
今は初夏、生命力が大地から吹き出す季節。

遠くから見ると、点点と存在する石灰岩の塊も、
しなやかな若草に抱かれた巨大な卵という印象で、
カルスト台地というより緑一色の大草原に見える。
次の目的地、秋芳洞への出発までに約15分あった。

ツアーの仲間は、記念写真を撮り、展望台から秋吉台を一通り眺めると、
もう、ここでの観光は終わりといった雰囲気で、
ベンチに座って、名物の夏みかんのソフトクリームをなめながら、
時間が来るのをじっと待っている。

展望台からすぐ近くに、やわらかくうねった小高い丘があった。
歩いて、5分もあれば充分にそこまで行けそうである。
わたしはカメラを片手にして、ひとりで歩き出した。

丘のむこうにでてしまうと、もう誰もいない。
広い草原にわたしがたったひとり。
若草のあまい匂いと静寂だけがあった。
この閑静がまるで別世界のように思えた。

この感覚には明確な理由がある。
最初にツアーのバスの席割を見て、ラッキーと思った。
わたし達の席が一番前だったからである。

でも、ラッキーがそれほどでもなかったのだと、バスが走り出して、
5分もしないうちに気づかされた。

わたし達の真後ろに座った中年の女性ふたりが、
説明をするバスガイドの案内にもまったく関心を示さず、
機関銃のようにとめどなく話しつづけるのである。

悪口、不満、自慢。
つまらない話ばかりである。

ふたりとも相手のはなしをあまり聞いていない。
相手が話しているときに、次に自分が話すことをひたすら考えている。
これが交互に延々と繰り返されるのである。

この雰囲気、なにかに似ていると思った。
そうだ。カラオケである。
誰かが唄っているときに、次の自分の曲を選んでいる。
拍手はするが、誰も真剣に相手の歌など聞いてはいない。

この、迷惑おばさんふたりの話の締めくくりは、拍手の代わりに
「そう、たいへんやったね」「うん、わかるわかる」
という言葉でつじつまは合ってくるのだが、
コミュニケーションは成立していないのだと思った。

丘の向こうで、しばらくたたずんでいると静寂と感じたのは、
一瞬の錯覚で、うぐいすがひっきりなしに澄んだ声を響かせ、
かっこうが遠くの森から特徴のある鳴声を届けてきた。
その他、何十種類もの野鳥が密度濃くさえずっている。

意味のない野鳥の声がすがすがしく、
意味のある人の声が煩雑で、やかましい。
不幸なことだとふと思った。



----------------------------------------------------------------------
sceneryの風景

「萩、津和野、錦帯橋をめぐる旅」というツアーに参加してきました。
恥ずかしい話ですが、ツアーに参加するまでは、津和野というのは
山口県だと思っていたのです。

津和野は島根県だったのですね。知りませんでした。
萩、津和野、音の響きがとてもきれいだと思いません?
日本人だけの感覚なのでしょうか?

外国人に聞かせても、Tsuwano という響きのうつくしさには
普遍性がありそうな気がするのですが・・

どこの観光地もそうですが、津和野は特に観光のポスターが
抜群にうまく撮れています。
ポスターだけをたよりにあの雰囲気を味わおうとすると
ちょっとがっかりするかもしれません。

津和野では、森鴎外の生家。
萩では、吉田松陰が開いていた松下村塾、幽閉されていた部屋などを
実際に見ることができて、満足でした。



----------------------------------------------------------------------
発行者 scenery
north@arion.ocn.ne.jp
HP 日常の風景
http://www6.ocn.ne.jp/~scenery/

----------------------------------------------------------------------
このメールマガジンは、

『パブジーン』 (マガジンID: 15730)   http://www.pubzine.com/
『メルマ』  (マガジンID: m00050779) http://www.melma.com/
『まぐまぐ』 (マガジンID: 79888)    http://www.mag2.com/
『メルマガ天国』(マガジンID: 8289)    http://melten.com/
『E-Magazine』 (マガジンID: scenery1) http://melten.com/
『Macky』 (マガジンID: scenery) http://macky.nifty.com/
『カプライト』 (マガジンID: 4327) http://kapu.biglobe.ne.jp/
『めろんぱん』 (マガジンID: 2179) http://www.melonpan.net/

を利用して発行しています。

----------------------------------------------------------------------
メールマガジンの退会・解除は
http://www6.ocn.ne.jp/~scenery/  からお願いします
----------------------------------------------------------------------