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            日常の風景   NO.0048
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チャペルにて

ホテルの正面玄関から、結婚式場のチャペルまでは、
ほんの100メートルほどの距離しかないのに、
全員バスで移動させられた。

もっとも、小雨がときどきぱらつく、風の強い日だったので、
助かったという気もする。

こじんまりとした、かわいいチャペルだった。
中央のバージンロードを挟んで、4人掛けの長いすが、
左右に7、8台整然と配置されている。

バージンロードの先は、祭壇へと続き、祭壇の奥は、
巨大なアーチ型の透明ガラス壁が、外からのひかりを存分に取り入れていた。

いちばん最後にバスから降りたのに、
いちばん前に席が用意されていた。
相棒にうながされて、いちばん前の席に座る。

やがて、結婚式が始まった。
わたしの席のすぐまえに、純白のタキシード姿の花婿が立っており、
その隣にこれまた純白のウェディングドレスに包まれた花嫁の後姿が見えるだけで、
結婚式を司る、司祭の姿はまったく見ることができない。

鉛筆立てに、鉛筆を置くようにして、祭壇の机に立てられた、とても長い鳥の羽が
白いタキシードから生え出したように、連続して見えるのがおもしろい風景だった。

アーチ型のガラス壁の手前に、燭台があり、3本のろうそくの灯が揺らめいている。
ガラス壁の向こう側は、道路を挟んで、荒れる琵琶湖の無数の白波が、
湧き起こっては、消えていた。

上天気とはいえなかったけれど、結婚式の間は、
ガラス壁のほとんどは、適当に雲が混じった青空で満たされていた。

やがて、結婚式は司祭の、モーセの十戒を引用しながらの説教へと進行していた。

「父母を敬いなさい」
「人を殺してはならない」
「盗んではならない」
「姦淫してはならない」

ひとつひとつ丁寧で、親しみのもてる解説がつき、
手馴れた、もう何百回も繰り返してきた説教だということがよくわかる。
でも、最後に司祭が、

「むさぼってはならない」

といったとき、わたしははっとした。
実に新鮮な日本語としてこころに響いたのである。

「むさぼり」ということばの意味は、人それぞれによって、
受け取り方が違うのだと思う。
でも、「ちいさな夫婦喧嘩」から「ブッシュのイラク攻撃」まで、
元をたどれば「むさぼり」のような気がする。

「むさぼってはならない」
結婚式を挙げているこのふたりには、司祭が述べたことばの意味を
しっかりと考えられるようなパートナーになって欲しいと思った。



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sceneryの風景

上記の結婚式は、わたし達、長男の結婚式でした。
祭壇上の長い白い羽は、結婚の誓約書に名前を書き込むためのものだったのです。
最後まで、ただの飾りだと思っていました。

コマーシャリズムに乗せられた、結婚式をするのではなく、
そのお金を新婚旅行にでも、回せばどう?
と、一度だけアドバイスしたことがありましたが、
通俗的ではあっても、それなりの壷を押さえた、
商業ベースの結婚式も悪くはありません。

ふたりが話し合って決めるのが一番です。

話はがらりと変わりますが、早坂暁の「夢千代日記」が毎日22時から
BSで再放送されています。

わたしの個人的な意見ですが、
テレビドラマの脚本家のなかで、早坂暁と山田太一のふたりが、
傑出していると思っています。

そんな訳で、夢千代日記の再放送も、楽しみに見ているのです。
再放送を見ていて、日本語というのは、ほんとうに美しい言葉だと思います。

脚本家が書くような、美しい、緊張感のある日本語を日々話しているわけでは
ありませんが、才能のある脚本家が日常の言葉を紡ぎ出すとき、
その響き、イメージは、なんともいえず、こころが洗われるような気がするのです。

来週、17日(月)からの「新・夢千代日記」が最後の再放送です。
ぜひ、見て、日本語の美しさも再認識してください。



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