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            日常の風景   NO.0044
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冬の雨の情景

冬の冷たい雨が静かに降る朝、
わたしの前を、傘をさした3人の親子が歩いている。
母親、幼稚園児の姉、3才ぐらいの妹、の3人である。

幼稚園の制服から推測するまでもなく、登園の途中である。

この3人、まるで田舎で行われる、お葬式の行進のように、
縦一列になって、路地裏の道をしずしずと歩いているから、
いやでもわたしの目にとまった。

一番先頭を行く母親は、あきらかに、何かに怒っている。
肩が尖って丸みがない。
原因は多分、一番後からうなだれるようにしてとぼとぼと
歩いて行く、幼稚園児のお姉ちゃんである。

3才ぐらいの妹は、事態をまったく把握していない。
冬の雨を楽しんでいる。
幼児の傘には、ミッキーマウスが五匹描かれ、
それがときどきくるくるとまわり出す。

ショッキングピンクのかわいい長靴。
真っ赤なずぼん。
ピンクのジャンバーに、黄色くて長いふわふわのマフラー。

そのうち、ミッキーマウスが斜めに傾き、
冷たい雨が、幼児の顔をぽつりぽつりととらえるが、
顔が濡れても、かしいだ傘を、立て直そうとはしなかった。

天を仰いで、冷たい刺激をこころから楽しんでいるように見えた。

やがて妹は、前を行く母親に、はじめて気がついたように、
ちょこちょこと追いかけて行き、
「お母ちゃん、手をつなごうな」と、幼い手を母親の手にからめた。

母親は、まだ自分の感情が処理しきれていなかったのだろうか、
最初はその手を撥ねつけていたのだが、
何度も何度も、無邪気に差し出される手をやっとしっかりと握った。

後ろから、その光景を、じっと見つめていた姉。
母親の手が、妹の手をとらえると、
ほっとしたような、うらやましいような、
もう、姉らしいしっかりとした顔立ちをしていた。



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sceneryの風景

一月に、中学生時代の同窓会があった。
小学校、中学校の同窓生というのはありがたい存在である。
社会的な地位とか立場などは、一切考慮することなく、
当時のままの愛称ですべてが通じてしまう。

時代を共有した、基本的な価値観にあまり違いがないという気楽さ。
何にも代え難い友人達だと思う。

同窓会が終わってから、そんな幼馴染のひとりから
下記のようなメールをもらった。

「これからの私たちは、自分さえ承知すれば、心のゆとりのある暮らしができるはず、
暖かく眠れるところと、食べるものが
ありさえすれば、楽しく暮らせるはずだと思います」

この、友人のメッセージはわたしもそのとおりだと深く思う。

私たちの子供時代、日本は貧しく、まわりのみんなも貧しかった。
貧しかったけれど、不幸ではなかった。
今よりずっと不便だったけれど、現在のようなあせりはなかった。

物質的な貧しさのメモリーが、歴然とあり、
地域社会のぬくみのようなメモリーも合わせて持っているわたしたちの世代は、
ある面ではとてもしあわせな世代である。

デフレだ、不況だとじたばたとあわてる気はしない。
高度成長時代が、うたかたの夢だったのである。
夢は夢で、子供時代の生活から比較すれば、
ほんとうに充分に味わわせてもらった気がする。

日本全体が、少しずつ、貧しくなって行くのなら、
それも想像するほどつらいことではないと思う。
地球の環境にとっては、不況というのは千載一遇のチャンスのようにも思える。

相棒とインドを旅行したとき、
日本とはけた違いの貧しさを目の当りにして、次のような会話を交わしたのを
鮮明に覚えている。
「もし、将来、自殺してしまいたいと思ったときは、インドでしようね」と



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