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            日常の風景   NO.0060
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昔の同僚

仕事を終えて、すぐに駆けつけたのだが、
北びわこ花火大会の会場は、もうほぼ満席だった。

相撲の、桟敷席のようにきちんとした区割りがあるわけではない。
なんとか、ふたり分のスペースを見つけて、
持参したシーツを敷き詰めると、もう、マイホームの完成である。

一段落して、ご近所を見渡すと、
お隣は、若い女性達ばかりのはなやかな浴衣集団。
お向かいさんは団扇を腰の帯に、粋に差しているカップル。
裏庭からは、普段は聞くことのできない、カラコロという軽やかな下駄の音。
これから始まる年一度の花火大会への期待がいやが上にも高まる。

待ちきれずに、缶ビールのプルリングを引っ張る。
わたしは、花火が大好きだが、きりっと冷えたビールのない
花火見物というのは考えられない。

5区画ほど先のシートに、同期に入社して、もう2年も前に退社した、
昔の同僚の顔を見つけた。
両手をメガホンにして、大きな声を掛けると、気がついてくれた。
元気そうである。

花火桟敷に夜のとばりが下り、しばらくすると、
1万発の花火の打ち上げがスタートした。

わたしが、花火見物を毎年欠かすことがないのは、
花火に人生を感じるからである。
あの音と光。自分の人生の一里塚にもっともふさわしいモニュメント。

花火そのものも、虚空から突如わきでて、
一瞬だけ、さまざまな色にかがやき、そしてまた虚空に消えてゆく。
あの輝きを見せる瞬間だけが、それぞれの人生と考えられないこともない。

花火というのは、単純にぱっと丸く咲く、大輪の菊のような、
花火が基本だと思う。

この花火がベースに常にあって、他の芸術的な作品が、生きてくる。
かたくなに昔からの伝統を守る花火職人がいて、
それに飽き足らない、野心的で若い職人達が、創造的な、芸術花火を競う。
そんな図式がなんとなく想像できる。

花火大会も佳境に入り、とうとうフィナーレのアナウンスがあった。
そのときである。わたしの昔の同僚が、立ち上がった。

最後まで見ていると、帰り道、猛烈に混み合うのが分かっているので、
あらかじめ、それを避けたのである。
目で、わたしを探しているのが分かったから、手を振って合図をし、
後姿を見送った。

今年は、フィナーレが圧巻だった。
打ち上げの技術はもちろん、効果的に見せる演出力も、
数年前に比べて、格段に向上している。

これが最後だと思って拍手をすると、すぐに次のフィナーレ、
スターマインの競演が始まり、それが終わって拍手をすると、
それはまた、次のフィナーレの始まりだった。
結局5回ほど拍手をしたことになる。

あまりのど迫力に、すべてが終わったあと、
その余韻で、しばらくは放心状態だった。
そして、そのときふと思い出したのである。
一足早く会場を後にした、昔の同僚の後姿を。

背を丸めて、淋しそうだった。元気がなかったような気がする。
こんな、おいしいフィナーレを見ずに帰った、同期生。
ひょっとして、退社したのがすこし早過ぎて、それを後悔しているのでは?
今ごろになってそんなことがすこし気になるのである。



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sceneryの風景

今、家をリフォームしている。
ちょっと本格的な規模で、屋根と外壁は完了したから、
次は内装。二階から手をつけることにした。

リフォームであたらしく発見したことは、
リフォームには、体力が必要だということである。
ある程度若いときでないと、絶対にできない。

床をフローリングにしたり、壁のクロスを張り替えるということは、
部屋を空にしなければならないということ。
この作業は、気が遠くなるほど、ほんとうに大変な作業である。

そして、次に気がついたことは、
わたしたちは何と不必要なものものものに囲まれて
生活しているのだろうということだった。

ものと空間が極端に少なくなると、
家族の関係も、また、昔のように濃密になる。ならざるを得ない。

たった一つの居間でみんな生活している。
テレビも電話もパソコンも居間に一台だけ。
読書もメールも、みんながテレビを見ているそばでしかできない。

こんな生活もなんとなくなつかしい。



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