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            日常の風景   NO.0052
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桜と青空

歴史が刻まれた彦根城の石垣を、
たわわに咲き誇る桜の花びらが、その半分ほどを覆い隠している。
苔むした石垣、華やかな桜。

そのコントラストがあまりにもあざやか過ぎて、
いかにも遊びがない。長く見ているとくたびれる。

おもわず、視線を外し、座ったベンチでおもいっきり上を向いて伸びをする。
ベンチわきの若い桜の間から抜けるような青空が見えた。
満開の桜は、シンプルな青空を背景にして見るのがいちばんだと、
そのとき唐突に感じた。

家でひとりだけの日曜日。
こんな日の昼食は、ほとんどが外食である。

ラーメン屋に行ったり、ちょっと高級な割烹店のランチサービスをおごったり、
その日の気分によって色々であるが、
今日は迷うことはなかった。

おだやかな陽射しと、満開の桜とくれば、
コンビニ弁当と缶ビールを小脇にかかえての、
ピクニック以外の選択肢はない。

気分よく、ベンチでのささやかなお弁当と、缶ビールを楽しむ。
ベンチ前の遊歩道は、花見客が適当に行き来して、
花見気分を盛り上げてくれる。

さっきから、4、5人の若い女性が、桜を背景に、熱心に写真を撮っている。
桜の花の中に自分の顔を埋めたり、
しなやかに伸びてきている、桜を自分の胸元に引き寄せたり、
ちょっと目立つ撮り方をしている。
自然に溶け込むというのではなく、自然を引き寄せるとでもいった・・・

彼女達が話していることばに耳を傾けると、どうやら日本人ではない。
中国語である。よくわからないが北京語ではない。多分台湾語(広東語)。

写真を撮るポーズも、日本人のように、両手でVサインなんてことはしない。
プロのモデルのように、堂々としていて、照れがない。
同じアジア人でも、これだけ個性が異なる。
わるくない景色である。

わたしの目の前のお堀の水には、雲ひとつ無い青空が沈んでいる。
その青空に触れんばかりに、伸びている満開の桜。
やはり、桜の背景には、単色の青空が映えるとあらためて思った。



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sceneryの風景

一時期、料理を趣味にしていたことがあった。
おいしそうでカラフルな料理の本は、簡単に手に入れられるし、
レシピ―に記載されている、材料をそのまま買い、
味付けも、指示されているように計測すれば、それほど大きく失敗することもない。

家族が、おいしいといってくれるのがうれしくて、
数ヶ月は夢中で取り組んだのだが、
なんとなく止めてしまった。
一度、止めてしまうと、料理はめんどくさくて、
上記のように一人のときは外食である。

前回の号で、奈良で文学仲間と出合った話を書いたが、
そのなかのひとりが料理を趣味にしていた。
趣味というより、自分の生活の一部として、完全に取り込んでいた。

文学の仲間達は、会社から離れてからも、まだ会社に未練を持っているものは、
ひとりもいなかった。
会社に所属しているときは、どちらかといえば、ほんとうに不器用な仲間であったが、
会社を離れたら、みんん器用というか、自由というのか、
それぞれユニークな生き方をしている。

文学の仲間というのは、もちろん女性もいる。
その、主婦のベテランをつかまえて、
彼が料理のコツのようなことを話し始めたのには、おどろいた。

また、おもしろい話で、主婦ふたりも、うなずきながらじっと聞いていた。

「主夫の生活というのは、材料が腐ることとの戦いやで」
毎朝、冷蔵庫をのぞいて、材料の残りから、献立を考えるという。
料理に精通するとは、こういうことだと思った。

わたしが趣味で料理をしていた頃は、料理をするたびに、
変な材料が中途半端に余った。
わたしの相棒も、わたしが料理に飽きて、実はほっとしているような気がする。



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