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日常の風景 NO.0056
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雨の妖精
湯ノ山温泉で宿泊したあくる日は、
久しぶりに御在所岳のロープウェイに乗り、
伊勢湾をはじめ知多・渥美半島などを遠望する予定だった。
だが、運の悪いことに朝から絶え間なく雨が降り続く、
生憎の日となってしまった。
こんなとき、近場の温泉というのは、ありがたい。
すぐに、予定を変更して、ゆっくり、のんびりモードに
簡単に切り替えることができる。
朝食を終えて又、露天風呂に入りに行く。
本格的な雨降りだが、露天風呂の1/4ほどは、
簡単な屋根で覆われていたのを思い出したのである。
中途半端な朝の時間。
露天風呂につかっているのはわたしひとりだった。
10m先が見えないほどの濃い靄、
風が吹くたびに、山全体が鳴る葉音。
姿はまったく見えない、鳥の鋭い奇声。
幽玄の雰囲気の中で、
ふしぎなことに雨音だけがまったくなにも聞こえない。
ただ、湯船の中で小さな波紋が無数に生まれては、消えていた。
上から見おろす、雨の波紋は日常いつも見慣れているが、
雨の波紋を真横からじっくりと見つめる機会はまずない。
ミルククラウンという現象がある。
雨も同じ事だと思った。
温泉のお湯では、さすがにクラウンはできないが、
真横から見ると、ちいさな水柱が、
リズミカルに立ち上っては、消えて行く。
シンクロナイズスイミングの選手が、
水中から水の上に勢いよく飛び出してくる姿に似ている。
雨の雫のなかに閉じ込められた妖精が、
ひとりひとり、歓喜の挨拶をしているようでもある。
音楽は濃い靄と雨の音、葉音、鋭い鳥の奇声。
わたしは、この雨の妖精の演技に、迷わず9.9点をつけた。
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sceneryの風景
日常の風景を書くのは久しぶりである。
題材が切れたわけではない。
ただ、癌であと数ヶ月と宣告されている身内がいる。
身内といっても、彦根と東京。
気にはなっていても、どうすることもできない。
どうしても、気分がザラつくのである。
しっとりとした集中力が湧いてこない。
日常のちいさな出来事にメモをとり、
それらを何とか伝えようと机にむかう、とりとめのない時間は、
平凡なしあわせな時間だったと、あらためて再認識。
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