*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*
            日常の風景   NO.0066
*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*

ナザレの昼下がり

ナザレはすばらしい海水浴場だった。
南北に2キロメートルほど、きめの細かい砂浜が続き、
北の端は、立派な岬が、高く雄大に切り立っており、
浜辺の風景として、見事にバランスがとれている。

8月のバカンスシーズンにはヨーロッパ各国から人々が、
比較的物価の安いこのポルトガルのナザレに大挙して押しかけるというのも、
うなずける感じがする。

9月の半ばにもかかわらず、まだ、ビーチパラソルが、
ちらほらと立ててあり、大西洋で泳いでいる人さえ、かなりいる。

北端の岬には、ケーブルカーを利用して登る。
崖の上の展望台から見下ろした、ナザレの風景は、
絵葉書のようなうつくしさである。

雄大な大西洋。海岸近くでちいさく砕けるあわ立つような白波。
どこまでも続いていそうな砂浜。
そして、陸地は白壁に朱色の瓦で統一された民家がモザイクのように広がっている。

だが、わたしの関心は、よく冷えた生ビールのほうに移っていた。
蒼い空、白い壁、青い海、燦燦と照りつける太陽。
これだけの条件が整っていて、
生ビールをまったく連想しないひとがあればお目にかかりたい。

展望台を下ると、ナザレ教会という大きな教会があり、
その前が観光客でごった返している広場になっていた。
その広場の一角を占める、お土産屋さんの2階がレストランになっており、
とにかく、そこに席を取って生ビールを注文する。

広場全体がよく見える、いい場所だった。
レストランの真下の道路沿いでは、大きなビーチパラソルを立てかけ、
その下で、色んな種類のナッツを売っている、豆売りのおばさんが、
椅子にぽつんと座っていた。

かなりの年配なのだろう。ナザレ地方特有の黒い民族衣装に身を包んでいる。
ジョッキを傾けながら、ナッツ売りのおばさんの様子を上から観察する。
ナッツ売りは、このおばさんの店だけではない。
広場を見渡したところ5つほども同じような店がある。

他の店の売り子は、観光客に強引なほどの勧め方で、味見をさせ、
それなりに、活発に商売をしているようであるが、
このおばさん、商売をする気があるのかないのか、つくねんと座り、
観光客が目の前を通り過ぎるのをただ見ているだけである。

やっとおばさんの店に、立ち止まる人が現れた。
子供を胸に抱いている、中年の女性だ。観光客ではない。

おばさんからピスタチオのようなナッツをもらい、
豆の殻を、ポイポイと景気よく、路上に放り出しながら、
おばさんと立ち話をしていた。

次に現れたのが、若者ふたりだった。
しばらく、何事か話していたが、このおばさん、どうしたことか、
椅子から立ち上がり、若者の後をついて行ってしまったのである。

当然、店は空っぽ。
誰も居ない店のパラソルに照りつける陽のひかりがまぶしいほどだった。

そんなとき、隣の相棒が「あれ見て」といった。
山のように積み上げてあるおばさんのナッツの入った籠に、
ぬっと大きな男の手が伸びて、ナッツをひとつかみつかんだのである。

生ビールのお代わりを注文しながら、
なんだかいやなものを見てしまったような気がした。

だが、10分もしないうちに、もう一度、同じ手が、
おばさんの籠からナッツをつかんだのを目撃したとき、
逆にふっと気が軽くなった。
このシーンはいわゆる万引きというのではないに違いない。

生ビールの酔いも手伝って、
色んな想像が次々と膨らむ、ナザレの昼下がりである。



----------------------------------------------------------------------
sceneryの風景

ナザレという地名は、新約聖書の、ナザレのイエスで有名であるが、
ここ、ポルトガルにもナザレがある。
由来は、やはり、聖書にある、イスラエルのナザレからきている。

フランス映画「過去を持つ愛情」の主題歌を歌った、
アマリア・ロドリゲスのファドとともに有名になった
ポルトガルの港町である。

ナザレ地方独特の民族衣装は、もう、年配の女性しか町で見かけることはない。

さて、ナザレの昼下がりの想像であるが、
女性の名前はマリアだと思う(マリアしか思いつかない)
ナザレのある区画の世話好きなおばさんで、
近所の人々からかなり頼りにされているマリアおばさん。

今日はお隣の夫婦喧嘩が派手にあったので、
近所の若い者が、商売をしているマリアおばさんに、
いつものように仲裁を頼みにいって、
マリアおばさんが「しょうがないね」という感じでついていった。

そのマリアがいない留守中のできごとだが、
彼は、マリオという名前で、前のみやげもの屋に勤めている、
陽気な青年である。

「マリア、今日も暑いね」
「でも、マリオはいいよ、いつも涼しい店の中でボーっとしてればいいのだから」
「今日仕入れたナッツ、特別にうまそうだね。ちょっと味見いい?」
「ダメダメこれは商売物だよ」
「ケチ、観光客にはタダで毎日食べさせているくせに」
「フン、観光客はタマには買ってくれるからね。
あんたもタマにはおアシを出して食べてみたらどうなのよ」

今朝、マリアとマリオとの間に、このような気楽なやりとりがあって、
それで、マリオはチョイとしたいたずら心を起こしたのである。

ナザレの写真を下記にアップしておきました。

http://www.za.ztv.ne.jp/magmaria/photo/nazare/nazare.html

マリアおばさんの写真も写っていますので、
時間がある方は、ぜひ見てください。



----------------------------------------------------------------------
発行者 scenery
north@arion.ocn.ne.jp
HP 日常の風景
http://www6.ocn.ne.jp/~scenery/

----------------------------------------------------------------------
このメールマガジンは、

『パブジーン』 (マガジンID: 15730)   http://www.pubzine.com/
『メルマ』  (マガジンID: m00050779) http://www.melma.com/
『まぐまぐ』 (マガジンID: 79888)    http://www.mag2.com/
『メルマガ天国』(マガジンID: 8289)    http://melten.com/
『E-Magazine』 (マガジンID: scenery1) http://melten.com/
『Macky』 (マガジンID: scenery) http://macky.nifty.com/
『カプライト』 (マガジンID: 4327) http://kapu.biglobe.ne.jp/
『めろんぱん』 (マガジンID: 2179) http://www.melonpan.net/

を利用して発行しています。

----------------------------------------------------------------------
メールマガジンの退会・解除は
http://www6.ocn.ne.jp/~scenery/  からお願いします
----------------------------------------------------------------------