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            日常の風景   NO.0074
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ビロードのビル

午後の4時を回っても、職場はまだ戦場のようなさわぎだった。
ひっきりなしに鳴る電話。
お客様への苦情対応。机に積み上げられたルーチン。
御用納めのこの日は、いつもよりなぜか忙しい。

ずいぶんと昔の話になるが、御用納めの日は、
午前中だけの出勤だった。
それも、通常のしごとはほとんど何もせず、
机の廻りを整理して、みんなと雑談して、お茶を飲み、
「よいお年を」と挨拶して、それで終わりだった。

給料は安く、くるまもパソコンもなかったが、
のんびりとした時代のあの頃がなつかしいと、
疲労でこわばった首筋をほぐすため、
右に左にぐるぐる、ぐるぐると頭を回していたとき、
目の隅に真っ赤なものが飛び込んできた。

東の窓から見える、いつも見慣れたマンションのビルが、
夕陽で朱色に染まっているのだ。
スポットライトで彩色したような、朱色。
柔らかなビロードのような深みのある、あたたかい色。

写真集などでよく見かける、
雄大な自然の一部分だけが真っ赤に染まった風景。
写真のトリックだと思ったこともあったが、
一瞬だけ、見慣れた風景がとんでもない表情を見せることもあるのだ。

それでは西側の夕陽が沈む、琵琶湖側の風景はどうなんだろう?
わたしは躊躇なく職場を放棄して、西側が見通せる廊下に出た。
廊下は薄暗い。
節電ということで、すべての電気が消してある。

何もない殺風景な廊下の壁に、窓枠の影が黒く映り、
白い壁が赤く染まっている。
まるで、わたしだけに見せる前衛的な、現代美術の一作品ようだった。

終わりよければすべてよし。
御用納めの日に、こんなに素敵な日常の風景に出会えたというだけで、
一年の疲れがすべて吹き飛んだような気がした。



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sceneryの風景

休みに入ればすぐに、書こうと思ってメモしておいたのですが、
さすがに、のんびり屋のsceneryさんも、
年末は忙しかったのです。

というよりは、掃除だ、買い物だ、料理だと
忙しそうに立ち働いている相棒の雰囲気に呑み込まれたといいますか、
とにかくパソコンに向かう気分でなかったのは確かです。

だからとうとう大晦日の発行になってしまいました。

みなさん、いいお年をお迎えください。
来年もよろしくお願いいたします。



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