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            日常の風景   NO.0063
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夕立に出会う

真っ黒な雲を見て、ロッカーの置き傘を手にしていた。
予想はあたった。
こんな予想があたるのはありがたくない。

かなりの降りである。
雷まで鳴ってきた。

傘に落ちるばらばらという音がすべての音を消す。
例外として食堂の宣伝用に立てられた数本の旗がはためくばたばたという音。
それに雷鳴。

いつもの路地裏の路に入る。
雰囲気が一変している。
両側に連なるいらかの上に広がる不気味な暗い雲、
人気のないがらんとした路地。

路地裏に咲くあざやかなプランターの花でさえ、
今日は不気味で不吉な色、かたちに見える。
幼いころ祭りで見た、見世物小屋のおどろおどろしい恐怖を誘う色を連想させる。

わたしは雷という自然現象そのものは嫌いではない。
自分が安全な家の中や、くるまのフロントウィンドウ越しに見ると、雷鳴も爽快。
雷光も空間を切り裂いて複雑にかがやく、放電の形がすべて見られると、
ぞくぞくとするほどワイルドな感じがする。

でも、でも帰宅途中の今は、何の防具もない、
恐怖の感情だけにおおわれた、剥き出しの、ひ弱なわたしだけがいる。

手にもつ傘は、まるでその先端が天にまで伸びている避雷器のように感じられる。

そんなときである。
昔からの家で、立て付けの悪くなっている長屋の引き戸が、
「ガラビッシャン!!」というすざましい音とともに、引き開けられた。
わたしは、文字通り、おもわず奇声をもらして、路地を飛び上がった。

のんきに夕立の按配を見に、外に出てきた老女と目が合い、
ずいぶんとバツが悪い思いをしたが、
正直なところ、こんなに驚ろかされたことは、久しぶりの経験である。



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sceneryの風景

正直に告白すれば、厳しい気象条件というのは、大好きである。
特に、好きな情景は、冬場の北陸の温泉。

温泉のつかりながら、曇りガラスを拭き拭き、
吹雪で荒れ狂う日本海の荒波を見るなんて景色は、ひそかに堪えられない。

雷もワイルドで本当は大好きなのである。
家に居るときなら、部屋の電気をすべて消して、飽きることなく、
いつまでも、稲妻を見ている。

外界の厳しさと、ぬくぬくとした、安全な場所に居る自分との落差で、
カタルシスを感じるというのは、俗人の本質だし、どうしようもない人の性である。

ただ、たまには、落差の向こう側に実際に身を置いてみる。
すくなくとも、向こう側の厳しさのことも、真剣に考えてみるという、
時間は絶対に必要なことだと思う。



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