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            日常の風景   NO.0100
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中央駅の哀しみ

大都会であっても、北欧の夜は暗い。
北欧だけに限らず、ヨーロッパの夜は暗いといっていい。
ただし、夜までも煌々と真昼のように明るいのは、
日本と、アメリカだけで、ヨーロッパの夜の暗さが普通といえるのかもしれない。

普段なら、慣れないこの暗さが、旅情を誘う。
雰囲気があり、照明を抑えた高級レストランで、
キャンドルの焔が点もされたような風情がある。

ウィンドウショッピングを楽しむ人、パブで会話とビールを楽しむカップル。
家族連れで、外食に出る人などで、通りはにぎやかである。

だが、一度雨に降られると、途端に人の流れが少なくなり、
寒さ、暗さ、心細さなどで、気分が滅入ることもある。

ヘルシンキでも、夜のとばりが降りるころになって、また雨が降ってきた。
昼間も、雨のなか、旅行かばんをごろごろと引きずりながらの、宿探しに難渋した。
わたしたちが選んだ、エコノミーなホテルにはレストランなどがあるわけもなく、
とにかく、どこかで夕食をすまさなくてはならない。

様子のわからない町で、あちこち迷ったが、
結局ヘルシンキ中央駅のなかのビュッフェに決めた。
ビュッフェなら、食べたいものを指差すだけで、事が足りるから楽なのである。

駅のビュッフェはだだっ広かった。そして食堂全体がとても暗かった。
昼間なら、2.3百人は楽に収容できるスペースに、
わずか10人足らずのお客が、ぽつりぽつりと離れて座っていた。

正面に、どこかの海岸の風景を織り込んだ巨大なタペストリーが飾られていたが、
暗くて、細かなところまではよくわからない。
タペストリーの真下にだけは、駅の食堂らしく、
列車の時刻や行き先を表示している、ディスプレイが青白くひかりを放っていた。

もそもそと食事をとり、ぬるい生ビールを飲みながら、
まわりを見渡してみると、ほとんどがひとりで座っていた。
目を瞑り、眉間にしわを刻んで、煙草をふかしている中年の女性。
疲れきった表情で、ただぼんやりと天井を見上げている初老の男性。

若者がひとりだけいた。彼は、さっきからずっと携帯電話で話していた。
フィンランド語はまったく理解できなかったが、なんとなく、電話の向こうには、
女性がいて、何かを懸命に説得している様子だったが、うまくいっていない。

おそらく、食事にだけここに来たという変わり者は、わたしたちだけだろう。
他の人は、多分、夜行列車でヘルシンキを離れる人たちだ。
これから旅にでるという華やかな雰囲気を身に着けているひとはだれひとりいなかった。

中央駅の孤独な哀しみのなかに、すっぽりとわたしたちまでが包まれてしまって、
これからが旅のはじまりだというのに、何だかしんみりとしてしまった。



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sceneryの風景

「100号に寄せて」

やっとというべきか、もうというべきか、
3年前に立ち上げた、この「日常の風景」がついに100号になりました。
読者の皆さまのおかげだと感謝しています。

特に、影になり、日向になり、声をかけ続けてくれた、
わたしの文芸の仲間の励ましが、非常な支えになりました。
ずっと昔から、詩や小説などを書いて、細々と雑誌という形にしてきた仲間です。

若い頃のように、どうしても書いておきたいという、強いモチベーションを失くしつつあった頃、
まがりなりにも、わたしの文芸活動が続いてきたのは、
年に一回仲間と発行する雑誌があったからです。

年に一回だけ仲間の文芸誌に書くというのが、わたしの唯一の文芸活動でした。

いつ原稿をたのまれてもいいように、日常の生活でなにかしら心動いたことを、
手帳や、メモ用紙に殴り書きはしておいたのです。
しかし、それらが作品化されることはほとんどありませんでした。

メモを読み返してみても、何がそのときに面白いと感じたのか、
感動が風化しているものがほとんどでした。

これではいけないと、あるときふと思ったのです。

そこで、リタイアすればゆっくりと立ち上げようと考えていた、
ホームページを前倒しして立ち上げ、その勢いで、
メールマガジン「日常の風景」もスタートさせました。

文芸の仲間にも、100号までは、絶対に続けると高らかに宣言しました。
たぶんみんな信じていなかったのではないでしょうか?
だいたい、私自身も宣言はしたものの、半信半疑でしたから。

「日常の風景」を定期的に書き始めるまでは、
いままで、書き溜めたメモを作品化してゆく予定でした。
ところが、書き始めてみると、書き溜めたメモはほとんど必要ありませんでした。

日常を注意深く見つめて、その日常を見ている、自分自身も見つめなおしてゆくと、
書く材料にはそれほど困らないということが発見できたのです。

日常に感性の鋭敏なアンテナを張りめぐらせるということは、
お金を使うことなく、平凡な日常にもいきいきといた感情の起伏ができるということで、
この3年間、作者が一番、楽しませていただいたような気がします。

読者は現在約400人です。
今後も、マイペースで、細々と続けてゆくつもりです。
よろしくお願いいたします。



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