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            日常の風景   NO.0095
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道に落ちた窓

歩いていると、ひとりでに汗が滲んでくる。
その汗を、ときおり吹く風がさっと、やさしくなでるようになぶって、
ふっと消えてしまう。

このような、心地よさは、夏の盛りには、決して味わうことができなかった。

出勤を急ぐ、わたしの目の前には、入道雲がある。
ボクシングのグローブをはめ、ファイティングポーズをとる、
ボクサーの両こぶしのような雲。

しかし、この入道雲にも、かってのような勢いは感じられない。
ボディブローを散々にあび、かろうじて突っ立っているだけの、
くたびれきったボクサー入道雲。

それでも、路地裏の道には人通りがまったくなく、
古い家並みの黒い影と、白く埃っぽいコンクリートとのコントラストが、
目にまばゆいくらいにあざやかだった。

道路の影は、家並みだけではない。
看板、電柱、電線、防犯灯、庭木など、
道の半分ほどを、アブストラクトな形に黒く染め上げていた。

陽あたりを避けるため、影踏みごっこをしている少年のように、
うつむきながら影をたどっていたときである。
家並みの影に重なって、窓の影がぽっかりと落ちているのに気がついた。
窓の部分だけ、半透明のような、ぼんやりと明るい影である。

歩みを止め、上を見上げると、その家の2階には確かに大きな窓があった。
しかし、問題は影である。家の窓が、そのまま影として映るはずがない。
きょろきょろとあちこち視線をうろつかせてみたが、
どうもよくわからない。

そのときである。視線の端で、なにかひかるものをとらえた。
数十メートル先で、道の対面にあたる、家の2階の窓が、
陽のひかりを反射させて、きらきらとひかっているのである。

道に落ちていた、窓の影は、向かいの窓の影。
しかし、同じ時間に、毎日のようにこの道を通っているのに、
こんな、現象を見たのははじめてである。

なんとなく、ラッキーという気分がして、うれしくなってきた。



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sceneryの風景

NHKの教育テレビを割合によく見るほうである。
趣味の講座とか、料理番組、語学講座など、
ほとんど関係がないのに、なんとなく見てしまうときもある。

最近気に入っているのは日曜日の朝の番組「日本語なるほど塾」
この間もあまりに番組がおもしろいので、
メモを取りながら見ていた。

この文章は、そのときのメモを見ながら、書いています。
「言葉が批評になるとき」という副題でした。

ヤジを飛ばすというと、あまりいい日本語としてののイメージはありませんね。
冷やかして、茶化すような。
でも、このヤジは、野次馬が語源です。

野次馬を辞書で引くと、馴らしにくい馬、強い悍馬とあります。
その野次馬の語源は野生馬ともいわれています。

すなわち、本来の野次は権威や権力に飼いならされない庶民の知恵だったわけです。

戦争中、「ぜいたくは敵だ」というお上の標語に「す」という一文字を加えて、
「ぜいたくはす敵だ」とヤジを飛ばした庶民。
「足らぬ、足らぬは、工夫が足らぬ」という標語から「工」を塗りつぶして、
「足らぬ、足らぬは、夫が足らぬ」と痛烈なヤジを飛ばした庶民。

しかし、このヤジを飛ばすのも、当時は命がけだったはずです。

批評は批判とは違います。本当の批評は相手をも救うユーモアがある。

強いものに向かう精神がないと、言葉が批評として生きない。
ヤジは権力者に対して飛ばすべきです。
拉致の被害者や、イラクで人質になった人に対して、飛ばすようなものではないのです。

今、わたしたちがすべきことは、
野次馬的に周囲をいつも見て、おかしいことに対して、積極的に声を出すことです。
そして、野次の対象は必ず、力を持つ権力者に対してです。

最後に、野次の三原則で締めくくられました。

圧縮せよ
時をにがすな
笑いで浮かせ(鋭いけれどもみんながくすっと笑ってしまうような)

このような野次が飛ばせれば、
ひとことで世の中の空気ががらっと変わってしまうようなこともあるのです。
そんな力のあるヤジ、みんなで考えたいものですね。



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