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            日常の風景   NO.0091
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小川の想い出

昨日から、家のものに2.3回念を押されていたので、
溝掃除を始めたのはわたしが一番だった。

例年なら、コンクリートと金属のスコップがたてる、
ジャリッというきしんだような、耳障りの悪い音を聞いてから、
ハッと思い出し、あわてて外に出るのが常だったが、
今年は、回り持ちの、自治会役員の年なので、
そんなにのんびりと構えてもいられなかった。

家の裏手にある排水路は、凹という字形のコンクリートで固められている。
普段は、一番底の窪みに水がすこしだけ流れたり、流れなかったり。
大雨の時だけ、年に2.3回、窪みから水があふれて排水路らしくなる。

溝掃除は、もう昔のように、スコップなどは必要でない。
風呂のタイルを磨くときに使用する、柄のついたたわしのような物で、
底にたまった、木の葉などを擦り取るのが主な仕事になった。

現在の、この排水路をみれば、誰も信じないだろうが、
わたしの子供時代は、小川と呼んでも不思議ではない水の流れがあった。

川幅、1mにも満たない、ささやかな流れであったが、
夏になれば、小鮎が産卵のために溯上してきたし、
小川の川辺で蛍の幻想的なひかりを楽しむこともできた。

祖母がここで洗濯をしていたのも憶えているし、
丸いスイカを冷やす場所も、ここだった。

セリは今でこそ、高級な食材になったが、雑草のようにして小川の両側に生え、
祖母が摘んできたセリをおひたしにして食べさせられたのが、
家は貧乏だから、とうとう野草まで食べなければ、ならなくなったのかと、
子供心がひどく傷ついたのを鮮明に覚えている。

彦根はほんとうに水の豊かなところだった。
彦根藩時代の町人街だったところを散歩すれば、
通りに面した、玄関の横手に、今でも、井戸の跡が残っている民家が多い。

湧き水が、こんこんと井戸から溢れ出ているのを見るのは、
子供時代の日常だった。

いつの頃からだろうか、その湧き水が、徐々に枯れだした。
近くにあった大きな工場、「鐘紡」と「近江絹糸」が
地下水を強力なポンプで吸い上げるからだといういう
大人がささやくつぶやきのような、噂を聞いたことがあったが、
だれも、実際に抗議に行ったというような話はなかった。

当時は、繊維産業が、日本の基幹産業で、経済的には、
「鐘紡」とか「近江絹糸」というような、大企業が全国から集めてくる、
多くの女工さん達で、彦根の町は支えられていた。

戦後生まれではあるが、私たちの世代は、
まだ、狂ったような高度成長時代が始まる前の、貧しい日本を知っている。
原風景とも呼べる、本来あるべき自然の姿も想い出のなかにある。
これは何にも代え難い財産なのだろうと思う。
 
当時、彦根の経済を支えていた「近江絹糸」は、8万u以上の更地を残して、
去年消滅した。
「鐘紡」も、工場の閉鎖が決まり、現在、解体作業が続いている。

工場が無くなっても、もう湧き水が再び、ふるさとに戻ってくることはない。



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sceneryの風景

溝掃除が一段落して、ふと家の庭を見ると、
雑草だらけである。

ついでにと思い、雑草を刈りだしたが、
これはしんどかった。

玉のような汗が流れるという慣用句があるが、
文字どおり、そんな汗が全身に流れた。

一段落し、シャワーを浴び、
朝からではあるが、缶ビールのプルリングを引っ張ったときの、
プシュという心地よい音。
そして、のど越しのビールのうまかったこと。

「あー、神様、これで死んでもいいです」
「・・・」
「ん」
「・・・」
「いや、もうすこし」
「・・・」
「やっぱり、取り消します」

子供時代は、お風呂に入るのも、ポンプから水をくみ出し、
バケツに移し、それを湯船まで何回も運び、
そして、ワラや薪を燃やして、風呂をたてていた。

今は、スイッチをひねるだけで、あたたかいお湯が出る。
冷蔵庫からギンギンに冷えたビールをいつでも楽しむことができる。

そんな生活をむさぼりながら、
自然だけ子供時代にと思うのは、それこそブルーローズなのでしょうね。

わかっていて、愚痴っぽくなるのは、やはり年なのでしょうか?
あたまの中に、理想の原風景があり、それと比較して、
愚痴る、嘆く。
多分、死ぬまで続くのでしょうね。

がらりと話は変わりますが、
憲法問題も同じことなのでしょう?
理想とする憲法があり、それと比較して現状を批判する。
理想どおりにならないことはわかっていても、やはり批判する。

批判できるのは、理想とする、原風景なり、憲法があってのことです。
両方ともたいせつにしたいと心から思います。



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