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            日常の風景   NO.0093
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竹垣の向こう

湯に入る前は、ふつうの温泉だと思った。
だが、湯船につかり、無意識に手のひらで
自分の体を撫でたとき、つるりとした、すばらしい感触を感じた。

保水力が抜群の、しっとりとした何ともいえないぬめり、
なるほど、これが「日本三美人の湯」といわれるゆえんだと納得した。
美しい肌を作るのにいかにもよさそうな、名湯である。
ここは、高野山からバスで1時間半ほど南に走った龍神温泉。

美人湯として名高いと聞いていたから、美人が多いかと期待していたのだが、
それはまったくの誤解で、出会ったのは大昔に美人だったひとばかりだった。

龍神温泉は深い峡谷のなかほどにあるひなびた温泉である。
露天風呂から空を見ると、空がせまい。
今にも羽を閉じてしまいそうな、巨大な緑のアゲハチョウ。
その胴体に乗って、空を見上げているような気がする。

つぎつぎと湧き出す鉱泉の勢いで、
赤ん坊のあたまのように隆起したお湯が、わたしの目の前にある。
その先端に、陽が差し込んでまぶしい。

その向こうは、湯船の石垣があり、湯船のまわりには竹が植えられている。
竹を通り抜けると、人の背丈ほどの竹垣がぐるりを囲んでいた。
竹垣の向こうを見ることはできないが、わたしには想像できた。
橋が架かっているのである。渓谷と渓谷とをつなぐ橋。

折角だから、この露天風呂からも渓谷とその底を流れる日高川の
雄大な風景を眺めてゆこうと思い、
裸のまま湯船を出て、竹垣の向こうを覗き込んだ。

やはり、思ったところに橋が見える。
日高川の流れも見える。山ではもうひぐらしが鳴いている。
そして、しばらくして何気なく振り返ったら、
若い三人の女性が、わたしを見てけらけらと笑っているのが見えた。

山の中腹に道幅のせまい道路があって、
その道路からは、露天風呂の竹垣がすっきりと見下ろせるのである。
その竹垣まで、わたしは、わたしの裸をわざわざ披露しにいったことになる。

距離はかなりあったので、わたしの年齢まではわからなかったと思う。
それにしても、裸を覗き見たときの、男と女のリアクションの違いには驚いてしまう。
彼女たちは、今夜の宿の夕食のときにでも、
このことを話題にして、死ぬほど笑い転げるに違いない。

男のように、ちょっぴり得をしたというような気にはならないのだろうか?



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sceneryの風景

初めて、高野山に行ってきました。
日帰りのバスツアーに参加したのです。
龍神温泉は、バスツアーのコースでした。

前から高野山には一度行って見たかったのですが、
彦根からですと、泊まりで行くのか、日帰り旅行でいいのか、
距離が微妙で、なかなか機会がなかったのです。

でも、夏の高野山、とても気に入りました。
標高1000メートルの寺院の町。
地上よりは2.3度涼しいのが快適でした。

高野山の奥の院というのは、巨大な墓地なのですね。
それも、歴史の墓地という感じがしました。
樹齢500年から800年という杉木立に囲まれて、
織田信長や豊臣秀吉、それに徳川の大名、
明治の志士などの墓がどこまでも続きます。

お墓以外、これといって何にもないところですが、
今度は泊まりでゆっくりと歩いてみたいと思いました。



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