*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*
            日常の風景   NO.0085
*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*

ワッショイ

「ワッショイ、ワッショイ」と神輿を持ち上げるたびに、
神輿のいちばん上に鎮座している、金色の鳳凰が、
今にもはばたいてゆきそうなほどに、躍動している。

空は今にも雨が降り出しそうなほどに、厚い雲で覆われていた。
しかし、みんな着ている祭りのはっぴが、
青空以上にまわりを明るい青に染め上げていた。

熱帯の深海を思わせるような青いはっぴ。
真っ黒な襟に、背中の祭りという真紅の文字。
大人、子供を合わせて50人〜60人の人々が、
同じユニフォームを着ると、それだけで華やかなお祭り気分になる。

子供神輿とはいえ、100キロはゆうに超えている。
だから、10人余りの町内の大人と、
神輿にぶらさがったりする、子供会のこどもを交えて、
神輿をかつぐ。

重いものを肩に担いで持ち上げるという行為は、
最近では、祭りの神輿ぐらいしか思いつかない。
だから、すぐに肩がすりむけそうなほど痛くなった。
用意のいい大人は、分厚いタオルを持参して、肩に乗せている。

とにかく「ワッショイ、ワッショイ」と景気がよく、
自然に気分が高揚してくる。
肩の痛みも、休憩所、休憩所で振舞われる、
茶碗酒の酔いが忘れさせてくれた。

子供の頃は、町内中を自分の庭のようにして、駆け回っていた。
神輿で練り歩く、多くの小道は、10年以上も歩いたことがなかった。
「ワッショイ、ワッショイ」という掛け声を耳にして、
家から、多くの人が出てきた。

幼稚園の喧嘩友達だった同級生の女性にも久しぶりに出会った。
びっくりするほど年を取っていた。
何気なく、会釈だけを返したが、向こうも同じことを思っているのだろう。

柿泥棒を見つかって、こっぴどく叱られた思い出のある、おばあさんもまだ健在だった。
家族に抱えられるようにして、いすに座り、
どこか遠くを見つめる仏さんのような慈悲のある表情をしていた。
あの頃、鬼のように感じた、険しい表情は今はどこを捜しても見つからない。

「ワッショイ、ワッショイ」と神輿を持ち上げるたびに、四隅を飾る、
風鈴のシャンデリアのような黄金色の飾りが、
チリンチリンと郷愁を呼び寄せるような、涼しげな音をかなでた。



----------------------------------------------------------------------
sceneryの風景

5月3日は彦根の北野神社のお祭りでした。
このような伝統的な文化は、
強制されたり、自治会の役員としての義務がなければなかなか参加できませんが、
一度、その流れに乗ってしまうと、なかなか楽しいものです。

前日から、神輿を出したり、組み立てたり、飾り付けを取り付けたり、
それは大変でしたが、みんなで行う共同の作業は和気あいあいとしたものです。

お祭りの当日、北野神社では、恒例の餅まきがありました。
酔った気分で、ひやかしに、いちばん後ろで、待っていましたら、
一個だけみごとにキャッチできました。

実は子供の頃、わたしは餅まきで餅を集める名人でした。
わたしのおばあさんに教えてもらった方法です。
「ええか、餅まきは、上をぼっと見て、手を出しててはあかん。
みんなの足元、下だけを見るんや」

おばあさんのアドバイスは的確でした。
大人が受け損なった餅が、足元に面白いほどに転がってくるのです。
両手いっぱいの餅を家に持ち帰ると、
おばあさんは頭をなでて褒めてくれ、それが我が家の夕食になりました。

やはり伝統的な文化は守る価値があります。
チリンチリンと無言の郷愁が心に響きます。



----------------------------------------------------------------------
発行者 scenery
north@arion.ocn.ne.jp
HP 日常の風景
http://www6.ocn.ne.jp/~scenery/

----------------------------------------------------------------------
このメールマガジンは、

『めろんぱん』 (マガジンID: 2179) http://www.melonpan.net/
『メルマ』  (マガジンID: 50779) http://www.melma.com/
『まぐまぐ』 (マガジンID: 79888)   http://www.mag2.com/
『メルマガ天国』 (マガジンID: 8289)   http://melten.com/
『E-Magazine』 (マガジンID: scenery1) http://melten.com/
『Macky』 (マガジンID: scenery) http://macky.nifty.com/
『カプライト』 (マガジンID: 4327) http://kapu.biglobe.ne.jp/

を利用して発行しています。

----------------------------------------------------------------------
メールマガジンの退会・解除は
http://www6.ocn.ne.jp/~scenery/  からお願いします
----------------------------------------------------------------------