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            日常の風景   NO.0113
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西浦温泉

目的地の西浦温泉という標識がやっと目につくようになった。
国道を走ったので、ここにたどり着くまでに、2.3度は迷っている。
田舎で、道路の案内板がないために迷ったのではない。
道路や標識が、多すぎて、どこを目指せばいいのかわからなくなるのだ。

こんなとき、くるまにナビゲータが備え付けてあればほんとうに便利だと思う。
助手席に座っている相棒が、ナビの代わりをやってくれれば助かるのだが、
地図を見るだけで、気分が悪くなるという体質なので、無理は言えない。

その代わり、ナビが発声する音声以上に、にぎやかではある。
ナビの代わりはできないが、まぁ、眠気ざましにはなる。

地図で見ると、両腕でかきいだくように囲まれている三河湾。
その腕の一本が渥美半島、もう一本が知多半島。
そのちょうど真ん中あたりの出べそのようなちいさな半島に西浦温泉がある。

一度西浦温泉の標識を目にすると、それからはやたら西浦温泉だらけになった。
実際、道路に表示されている矢印も、右に進んでも西浦温泉、
左に進んでも、西浦温泉なのである。

はじめて訪れる運転手の立場からすれば、どちらかに決めて欲しい。
案の定また、袋小路の見知らぬ漁港に迷い込んでしまった。

左手に三河湾を眺めながら、なんの特徴もない岬をカーブした途端、
突如として、観光ホテルが山の上にまで林立している西浦温泉が見えた。
街路樹として植えられている背の高いしゅろの木が、南国のような雰囲気をかもしている。
海岸には、きめ細かい淡いクリーム色の砂で埋まった、かわいいビーチがあった。

格安の宿泊費にもかかわらず、
通された部屋は、最近改装されたばかりで、真新しくいうことがなかった。
それに、部屋の窓から、三河湾が一望のもとに見渡せる眺めもすばらしい。

若い頃の旅行といえば、ぎりぎりまで周辺の観光に忙しく、
温泉旅館はただのベースキャンプのようなものであった。

今は、文字通り、温泉でのんびりすることが目的になったので、
チェックインの3時には、ホテルに着いている。
一番乗りということが割合に多い。

すぐに、浴衣に着替え、温泉に浸かり、夕食まで時間があるので、
海を眺めながら、部屋の椅子に座り、
コンビニで購入してきた缶ビールのプルリングを引き(ちょっとセコイですね)
肩のこらない本を開けるひとときが珠玉の時間です。

温泉で読む本は、いろいろとためしてみたけれど、
わたしが好きな作家、司馬遼太郎とか村上春樹などはあまり温泉向きではない。

漫画家が書く随筆が、いちばん温泉に向いている。
東海林さだおの「ショージ君」シリーズとか、さくらももこのシリーズとか、
ほのぼの、ほんわかとした文体が心身を癒してくれる。
漫画そのものを読むのも悪くはない。

つげ義春の漫画などは、温泉の雰囲気にぴったしだし、
ジョージ秋山の「浮浪雲」なんかも、しみじみ読めば人生観が変わるかもしれない。

本から目を上げて、海岸を見ると、砂浜の上で、若いふたりの男女が戯れている。
南国の雰囲気はあるのだが、まだ2月。
陽はさしているが、浜辺に出れば、風もあり寒いはずである。
そんなことは若いふたりにとってなんの障害にもならないらしい。

くっついたり、離れたり、そのうち女性が、先頭になって砂浜を
波止めの方に駆け出した。
そのあとを若者が追いかける。
走る女性は振り向きながら、若者に向かって何か短い言葉を叫んでいる。

浜辺の端には逆のL字型に積み上げられた波止めのブロックが海に向かって伸びていた。
波止めのブロックのなかほどで若者は、女性に追いついた。
そして、キスをした。長い長いキスだった。
三河湾の海が、陽光をはじいて、ふたりのまわりを宝石のようにキラキラと光らせていた。



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sceneryの風景

前の号「節分の雪見酒」で「まるでエスキモー人のようである」と
何気なく表現した箇所があったのですが、
「エスキモー」は差別用語で「イヌイット」と表現するのが正しいのではと、
わたしの文学仲間からアドバイスを頂きました。

多少なりとも、モノを書く立場にありながら、
子供のときから親しんできた言葉でしたから、
「エスキモー」が差別用語であるということは、
指摘されるまで、まったく知らなかったのです。

丁寧に読んでくれる仲間がいるということは、ほんとうにありがたいことです。
このことをきっかけにして、わたしたちの仲間内で、
「エスキモー」に対してのちいさな論争が広がりました。

もし、興味があれば、下記の掲示板を覗いて見てください。
http://8531.teacup.com/skamiga/bbs

おかげさまで、そんなつもりはなかったのですが、
エスキモーやイヌイットの歴史等について、
多少興味を持って調べる機会が与えられました。
感謝です。



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