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            日常の風景   NO.0104
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宇宙船羽毛号

放射冷却という現象の詳しい理屈はよくわからない。
でも、骨にまでしみるような、とんがった冷気が、
体中から熱を奪ってゆく現象だということだけは、よくわかる。

その寒さの代償ということでもないだろうが、濃紺の夜空の透明度はきわめて高い。
風はなく、星々の瞬きが可憐で、ひかりがいつもより強く感じられた。

歩きながら上を見上げると、冬枯れの木立がさまざまな方向に枝を伸ばしている。
まるでモザイクのように、枝で細かく区切られたスペースから
ひとつだけ顔をのぞかせている星は特に印象的である。

地球よりも、太陽よりも巨大な星が、ちいさな枝に絡み取られたような光景は、
ふしぎでおもしろい。

そんなときである、一枚の羽根が枝の間から空中にふんわりと浮かんでいるのが目に入った。
薄い緑色をした羽根が、ゆらゆらとすこしずつ場所を変えながら空中でゆれている。
夜空を飛ぶ鳥が落としたものだろうか?
それとも、枝にとまっていた羽根が、何かの拍子に飛び出したのだろうか?

まるく、しなやかな曲線、かわいくそりあがった縁。
文字通りの船、空飛ぶ宇宙船に思えた。

さらに、ふしぎなことには、薄い緑色の宇宙船は、
突然、その色を薄い赤色に変化させたかと思うと、
まるで、宇宙船にエンジンが点火したかのように
夜空に向かってゆっくりと上昇し始めたのである。

そして、ふっと消えてしまった。
映画「スタートレック」のファンなら何が起こったのかすぐにわかると思う。
惑星間のワープ移動の現象が目の前で起こったのだ。あの星に移動したのに違いない。

ふしぎな寒い夜でした。

おわり。

と、日常の風景、ここで終わってしまえば、
夢でも見たんだろうということになりかねません。
だから、続きも本文に書きます。

わたしの、数メートル後ろに、清涼飲料の自販機があかるく光っていたが、
羽根は、木の濃い影の中に入ると、まったく見えなくなってしまった。

風はまったく無いように感じられたが、
何かの理由で、部分的な上昇気流が発生しているに違いない。
わたしは根気よく、目を凝らして、羽根の行方を追った。
そして、見つけた。

今度は、ゆっくりと降りてくる。
時間は掛かったが、宇宙船羽毛号は見事にわたしの手のひらに着陸したのです。

その間、わたしの歩道の先に続いている、横断歩道の信号は、
赤から青に、青から、赤に、数回切り替わっていました。

その夜の羽根は、今も、わたしの机の上にあります。
ほんとうにバランスのよい羽毛で、
指にその羽根をつまみ、手を上にあげてから放つと、
まるで、スローモーションのように、時間をかけてゆっくりゆっくりと床に降りてきます。

わたしはこの羽毛になんとなく人生を感じるのです。
上に伸ばした手から、床までが一生だとすると、
パチンコ玉を落としたようにすとんと、落ちてしまうのではなく、
ゆらゆら、ゆらゆらとあちらこちらでつまらない道草もしながら、
ゆっくりと楽んで、舞い降りたいものだと。



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sceneryの風景

昔は、人生の成功者を定義するのはずいぶんとシンプルだった。
お金をもうけた人が、成功者だったのである。
社会的に出世をした人も成功者であったが、
出世をすれば、お金がもうかるということも間違いなくあった。

でも、現代の社会において、
人生の成功者とは?という問いに、
すぐに答えられる人は、ほとんどいないのではないだろうか。
また、その答えも千差万別のような気がする。

いろんな答えがあっても、それは、それで構わないと思う。

この間、作家の村上龍が発行しているメールマガジンに、
こんなことが書いてあった。

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人生の成功者というのは、
「生活費と充実感を保証する仕事を持ち、
かつ信頼できる小さな共同体を持っている人」という仮説を立ててみたい。
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さすがに、うまく表現するものだと感心した。
やはり、仕事は大切である。
大金でなくてもいい、生活が保証され、仕事にある種の充実感が感じられれば、
それは充実した人生だろうと思う。

でも、この定義のミソは「信頼できる小さな共同体を持つ」ということに
尽きている。
「信頼できる小さな共同体を持つ」、持てる、ということは、
仕事人間だけではダメということでもあるし、
人間性、生き方を根本から問い直す定義でもあるとわたしは感じました。

実は村上龍の小説は芥川賞を受賞した、
「限りなく透明に近いブルー」一作だけを読み、
あまりいい印象の作品ではなかったので、
その後まったく読んでいませんでした。
小説家として、こんなにも活躍する器だとは夢にも思わなかったのです。

でも、彼が主催するメールマガジンは大したものです。
まだの人は、ぜひここから登録してください。
http://ryumurakami.jmm.co.jp/

村上龍の小説も、また読んでみようと思います。



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