*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*
            日常の風景   NO.0102
*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*

夕暮れのグラデーション

終業のチャイムが鳴るまで、あと10分間という時間帯に、
手を洗いに事務所から廊下に出る。
一日が終わったという開放感から、我流のストレッチ体操を自然に始めていた。
組んだ左右の手のひらを天井に向け、伸びをしたり、ひねったり。

3階にある廊下の大きな窓から、外を見下ろすと、街には夜の闇が降り注ぎ、
様々な人工的なひかりが、闇を振り払うように、
密集した城下町の家並みをうっすらと浮かび上がらせている。

遠くに目を移すと、琵琶湖の向こうに連なる、比良の山々がまだ見える。
水で薄めた墨汁を使い、筆でなぞったように、
山の輪郭だけが、モノクロで平面的に見える。

だが、山並みの輪郭のすぐ上は、明るい。
山の曲線に沿って、赤みを帯びた朱色が着物の帯のように輝いている。
朱色から、オレンジ色、みかん色、レモン色、クリーム色と、
みごとなグラデーションが続き、色が徐々に薄くなって、
やがて薄紫の空の闇に溶け込んでいる。

もしわたしがすぐれた写真家だとしても、
この微妙なグラデーションを写すのは不可能だと思った。

いかに、高性能のカメラであっても、
いかに、高感度のフィルムを使用したとしても、
この空気までは写せない。ましてや、終業が近い開放感などを織り込むことはできない。

ひょっとして、わたしがすぐれた画家だとすれば、
写真よりはこの情景や気分を伝えられるのかもしれない。

キャンバスに描く色彩は、実物とは似ても似つかぬ色になるのかもしれないが、
朱色から、薄紫へと続くグラデーションの感動のようなものは、
なんとか表現できそうな気がするのである。

オスロ美術館で見たムンクの「叫び」。
あの空の色と同じ色の空を、デンマークのコペンハーゲンで、
確かに見たと感じたときの喜びのようなものをふと思い出していた。



----------------------------------------------------------------------
sceneryの風景

ムンクの「叫び」は以下のURLで見られます。
http://www.yvicky.com/Norway/muse02.html

最近、「カプライト」というメールマガジンにわたしの「日常の風景」が紹介されました。
宣伝もなにもしていないのに、誰かの目にとまり、推薦していただけるのはありがたいことです。

わずか、1日だけの推薦でしたが、読者が50人近く増えました。
あたらしく、読者になっていただいた方、マイペースで、気楽に書いてゆきますので、
よろしくお願いいたします。

前の号「枯葉のかざぐるま」で、「クモ助のはなし」という童話の思いつきを紹介しましたら、
いろいろな方からお便りをいただきました。
ほんとうにありがとうございました。

最初に大きなミスを訂正させてください。

------------------------------------------------------------
今回の「枯葉のかざぐるま」のクモスケの話しですが、
このお話の中で、蜘蛛が糸を出すところが「口」となっていたように
思いますが、ほとんどの蜘蛛の糸は、お尻のほうの糸いぼ(体の後ろの糸いぼ)
から出すようです。ちょっと気になったのでメールしました。
------------------------------------------------------------

ある人からこのようなメールをいただきました。
子供の頃なら、このようなミスは決して犯さなかったのです。
クモというふしぎな生き物に興味があり、クモが巣を張ったり、獲物をとらえたりする様子を、
飽きることなく、いつまでも見ている子供でしたから。

「体も大きくなり、口からは強い糸が吐き出せ、立派な蜘蛛の巣もつくれるようになりました」
という表現でしたが、この文章の間違いに、すぐに気づかれた方はそんなに多くないと想像します。
わたしを含めて、いかに現代の大人が、自然から遠ざかっているかという証拠かもしれません。

このはなしはクモ助の復讐劇に過ぎないと、クモ助の処理に困っていたのですが、
続きを書いてくれた人もいました。

------------------------------------------------------------
くるくる くるくる くるくる くるくる
葉っぱさんは 益々回っています。
くすくすくすくす 葉っぱさんは楽しそうです。 
それはまるでサーカスのブランコのようです。

クモ助は それをじい〜っと見つめていました。

そんなクモ助に葉っぱさんは
「 おいでよ。 一緒に踊ろうよ」 と誘いました。

怒ったような困ったような顔をしたクモ助が、
少しずつブランコに近づきました。

・・・・・・・くるっくる・・・・・・・くるっくる・・・・・くるくる・・くるくる・・
くるくる くるくる ふっふふ ふふふふ。
くるくる くるくる はっはは はははは。

風さんもつられて笑っています。
クモ助の踊った後には、真新しい蜘蛛の巣ができました。

やがて踊り疲れた葉っぱさんは、巣の上でウトウトと眠り始めました。
それを見たクモ助は、幼い頃を思い出し、胸がキユンとなりました。

それからクモ助は、葉っぱさんの上にそっと布団の様な糸をかけました。 
------------------------------------------------------------

なるほど、この結末なら、みんながハッピーエンドになり、
童話らしくかたちは整ってきます。

しかし、以下のような意見もありました。
------------------------------------------------------------
クモ助のはなしはすこし、寓意をもたせようとして、
かえって捉えたものを矮小化しているように思いますが、いかがでしょうか。
このような作品はあえて何も語ろうとしないで、読者にまかせるほうが大きな作品になりそうですね。
子供が、なんでー?どうして?と、色んな事に興味、関心を持つ、その心と眼を大切にしていきたいですね。
------------------------------------------------------------

うーん、この意見にも深くうなずかされました。

またまた、ほんとうの一部だけの抜粋ですが、
------------------------------------------------------------
                ・
                ・
物語の基礎(動植物や宇宙までの自然のしくみなどの事実関係=それが、ある時、
偶然か必然か日常とは違う姿でフト目にとまり、感受性を刺激する)には、
あくまで科学的な認識があり、そこから個性に応じた想像力の発展があるのだと考えます。
瞬間のひらめき自体が何らかの事実に触発されているのですから、
心に残った引っかかりを「何とかしたい」と作者は苦悶する。
その過程に実体調査があり認識の深まりがあり、更に新しいエピソードが生れてくる。
それらのつながりを再構成する作業に虚構があっても、そこには作者の創作としての「真実」がある。
面白さとは、そうして生れてくるものでしょう。
                ・
                ・
「童話」は誰の立場にたって書くかということです。
大人の目線で子どもと対話せず、しゃがんで対等の目線で話せと、よく言われます。
幼い頃、誰もが普通に具えていた「世界との同化」の感覚がいつの間にか消えている。
優れた「創作童話」作家は、自分自身が自分が創造する主人公になりきっている。
それを読む子ども同様に、わくわくするような新鮮な喜びを身にたたえて書いている。
                ・
                ・
------------------------------------------------------------

など、本格的な、童話に関しての論評を書いてくださる方までいて、
わたしの思いつきが、本格的な、童話論争に発展しました。
まだ、身内で意見の交換は続いているのですが、
真剣に論議していただいて感謝しています。
童話に関してほんとうにいい勉強になりました。

ただ、ここまで、話が盛り上がりますとこれが完成稿ですと、
「クモ助のはなし」HPにアップできないかもしれません。

でも、今回は童話についていろいろと考える機会が与えられましたので、
この次には、お話を完成させてから、みなさんに紹介できればといいなと思っています。



----------------------------------------------------------------------
発行者 scenery
north@arion.ocn.ne.jp
HP 日常の風景
http://www6.ocn.ne.jp/~scenery/

----------------------------------------------------------------------
このメールマガジンは、

『めろんぱん』 (マガジンID: 2179) http://www.melonpan.net/
『メルマ』  (マガジンID: 50779) http://www.melma.com/
『まぐまぐ』 (マガジンID: 79888)   http://www.mag2.com/
『メルマガ天国』 (マガジンID: 8289)   http://melten.com/
『E-Magazine』 (マガジンID: scenery1) http://melten.com/
『Macky』 (マガジンID: scenery) http://macky.nifty.com/
『カプライト』 (マガジンID: 4327) http://kapu.biglobe.ne.jp/

を利用して発行しています。

----------------------------------------------------------------------
メールマガジンの退会・解除は
http://www6.ocn.ne.jp/~scenery/  からお願いします
----------------------------------------------------------------------