*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*
            日常の風景   NO.0110
*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*

雪の朝

彦根に降った、今年初めての本格的な雪である。
通勤途上の雪の朝は、生活の活気とざわめきに満ちている。
地面と雪の間に、除雪用のスコップを差し込む、
きしんだようなざらついた、雪かきの音。

その音に混じって、普段はあまり接触のない、
隣どおし、または通行人との間で交わされる挨拶があちこちから聞こえてくる。
「おはようございます」「ごくろうさまです」「よく降りましたね」

気温は氷点下にちかく、頬をなぶる風も冷たくて、とても寒いのだが、
思わず、心が温かくなるような、いい景色なのです。

いつもの細い路地裏の道幅いっぱいに、
くるまのわだちが2本真っすぐに伸びている。

そのわだちの上を、母親と、幼稚園児の女の子が1列になって歩いている。
前を歩くのが、母親。
背が高く、背筋をしゃんと伸ばした姿勢がとてもいい。

濃い茶色のブーツに、フード付きの黒いオーバー。
一定のリズムで淡々と歩いている。

後ろからついて歩く女の子は、母親の足が速すぎるのか、
小さなお尻を左右に振り、ときどき駆け足をしながらついてゆく。

女の子は黄色のカバンをたすきがけにし、
赤い長靴に、ピンクのズボンとジャンバー。

後ろから見ていると、
民家に挟まれた真っ白な雪の帯が遠近法の絵画のように伸び、
母親の黒いオーバーが、動くスクリーンのように映え、
ピンクの女の子がぴょこぴょこと駆ける姿をより際立たせていた。

母親から遅れがちになるにもかかわらず、
女の子はわだちの上だけを真っ直ぐには歩かない。
真ん中の新雪にも、ずかずかと足を踏み入れ、雪で赤い長靴が隠れることもあった。

そんなとき、突然民家の門から、子犬が飛び出してきて、
尻尾を盛んに振りながら、女の子の回りをぐるぐると回りだしたのである。

たぶんじぶんの家でも犬を飼っているのだろうか。
女の子は臆することなく、その場にしゃがみこむと、
犬の首筋から、背中を撫でまわしている。

前をゆく母親との距離がみるみる開き、
10メートルほど先でやっと母親が振り向いた。

母親はその場に立ち止まり、ただ黙って、女の子を待っていた。
黒いフードで半分顔が隠れているが、穏やかな愛情にあふれた表情がちらっと見えた。
女の子の様子を、何も言わずに、ただ黙って見ていた。

女の子がじぶんで「バイバイ」と犬にかわいい手を振るのを見て、
何事もなかったかのように、ふたたびわだちの上を歩き出した。



----------------------------------------------------------------------
sceneryの風景

私が好きな番組のひとつ、NHK教育テレビの
「日本語なるほど塾」で、この間日本語の「頑張れ」ということばを取り上げていた。

何の気なしによく使う言葉であるが、
このことば、励ますべき相手の励ましになっているのでしょうか?
というのが主題であった。

有名な女子マラソンの走者にインタビューしていた。
「頑張れ」という声援は負担になるだけだと答えていた。

参考になったのが、英語の声援である。
わたしも知らなかったのだが、英語では、マラソンの選手に
「スマイル」
「グッド ジョブ」
「エンジョイ」
「ハブ ア ファン」(楽しんで)
「テイク イット イーズィ」(気楽にゆこうぜ)

など、「勝利」という重たいものを背負わせるのではなく、
できるだけ、背負わされたものをできるだけ取ってあげるという
掛け声がすべてだと番組から知った。

言葉は「言霊」と呼ばれるように、
言葉ひとつで、相手が幸せになったり、
決定的な憎しみが生まれることもあるのです。

「言霊」の重みをこれからも勉強したいと思います。

ちなみに、「頑張れ」と命令して突き放すのではなく、
「頑張りましょう」とか「頑張ろうよ」というような、
いっしょに頑張ろうというニュアンスで伝えたいというのが、
ひとつの結論だったような気がします。



----------------------------------------------------------------------
発行者 scenery
north@arion.ocn.ne.jp
HP 日常の風景
http://www6.ocn.ne.jp/~scenery/

----------------------------------------------------------------------
このメールマガジンは、

『めろんぱん』 (マガジンID: 2179) http://www.melonpan.net/
『メルマ』  (マガジンID: 50779) http://www.melma.com/
『まぐまぐ』 (マガジンID: 79888)   http://www.mag2.com/
『メルマガ天国』 (マガジンID: 8289)   http://melten.com/
『E-Magazine』 (マガジンID: scenery1) http://melten.com/
『Macky』 (マガジンID: scenery) http://macky.nifty.com/
『カプライト』 (マガジンID: 4327) http://kapu.biglobe.ne.jp/

を利用して発行しています。

----------------------------------------------------------------------
メールマガジンの退会・解除は
http://www6.ocn.ne.jp/~scenery/  からお願いします
----------------------------------------------------------------------