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　　　　　　　　　　　　日常の風景　　　NO.0140
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朝の病室

目覚めは、無粋なスピーカの放送だった。
何を言っているのか、まだ頭が朦朧としていてよくは聞き取れない。
手元の時計を見ると、きっかり６時だった。

やがて少しずつ、朝の病院のざわめきが、潮騒のように聞こえてくる。
早足で移動するスリッパの音。
薬や器具を満載した、銀色のワゴンを押す音。
遠くの病室から聞こえてくる、
看護師の「おはよう」「お変わりありませんか」という声。

そのうち、わたしの病室にも、看護師が来て、
同じように挨拶をし、
ベッド周りのカーテンをリズミカルに勢いよく開けてゆく。
窓側のブラインドも開けてくれたが、外はまだ暗い。

病院で向かえるはじめての朝である。
わたしは何をしていいのかよくわからないので、
まだ夜の闇を貼りつけたままの、病室の窓ガラスをぼんやりと眺めていた。

ほんのひととき過ぎると、すぐに夜の中に朝が忍び込んできた。
星はまだいくつか残って瞬いているが、
空の色は濃い紺青にわずかな赤みを帯びてきた。

夕焼けとは違って、地元で夜明けの瞬間を目にすることは、
ほとんどない。
多分、ほとんどの人はそうなんだろう。

山に行ったり、海にキャンプしたりするときは、
夜明けを見ることがあるが、自分のふるさとでは見ない。

効果が計算された、舞台での照明をまのあたりにしているようで、
わたしはベッドに腰を下ろしたまま、
夜明けの変化を眺め続けていた。

左手には鈴鹿山脈が連なり、右手にはお椀を伏せたような荒神山。
中央にこんもりとした森が見えるの、犬上川の堤防に植えられた木々である。
中央の森はまだ黒い。

だが森の上にマシュマロのような細長い雲がきれぎれに浮かび、
やがて朝陽を浴びて、オレンジ色に染まってきた。

空気が冷たく凛と澄んでいるような気がして、
思わず、外に出て、深呼吸がしたくなる。
骨が折れている肩はすこし痛むが、気分はすこしよくなった。



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ｓｃｅｎｅｒｙの風景

あたらしく建設された彦根市立病院の環境は抜群である。
建設される前は、大学のキャンパスがあったところで、スペースもゆったりとしている。

琵琶湖のそばにあり、天気がいいと、
比良山脈、伊吹山脈、鈴鹿山脈がくっくりと見える。
まるで、リゾートホテルが建つような場所にあるのである。

「病院は天国みたいなところやね」
と、同室の老人がつぶやいた。
明るい窓から、冬の陽射しが病室いっぱいに入ってくる。

すこし暑く感じられるほどの暖房なので、冬なのにみんな薄着ですごせる。
吹雪や強風で外が荒れても、その変化さえもがおもしろい。

「これで、どこか悪いところさえなければね」
と、わたしは思わず本音をいってしまう。
入院している整形外科は比較的入院期間も短いし、患者も明るい人が多かった。

実際このようなゆっくりとした時間を過ごせるのは病院だけだ。
欲望が極端に制限されるのも悪くない。
みんながやさしく、工夫をすれば、それなりに豊かにもすごせる。



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