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            日常の風景   NO.0125
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グラスの底から

神戸に来たのは久しぶりである。
街は、明るくて、華やかで、活気に満ちていた。
10年前に、あの大震災があった街とはとても信じられない。

JR神戸駅から近いので、
夕食をとるために、神戸港の見える、ハーバーランドに足を伸ばした。

「折角神戸に来たんやから、おいしい神戸牛を食べよう」
わたしは本気でそういった。
横にいる相棒は、フフンと笑うばかりで、まともに取り合っているようには見えない。

メリーゴーランドの近くにあるレストラン街で、
和食、洋食、中華、イタリア、フランス、エスニックと、
あらゆるレストランのメニューをのぞく。

7000円、8000円という価格を見ただけで、
神戸牛は夕食候補から早々に脱落していた。
正直な話、わたしには、2000円のステーキと、
8000円のステーキとの違いがよくわからない。

結局、生ビールのつまみ料理が豊富に揃っている、
洋風パプのような店に決める。
ここなら、オーダしだいで、安く上げることも可能である。
いつも、あらゆるレストランを検討して、同じような店に落ち着く。

3階にあるこの店の一番のごちそうは、
屋外に張り出された、木製のデッキの上から見える、神戸港の風景である。
ポートアイランドやメリケンパークが一望のもとに見渡せる。

港の風景は、薄暮の黄昏どきがうつくしい。
目の前のディナークルーズの船に、無数の豆球が点火され、ゆらゆらと揺れている。
ポートタワーに明かりがつき、豪華なホテルの照明も輝き始めた。

1杯目のジョッキが空になる頃、港の思い出話に花が咲いていた。
5年前には、この港から、釜山、上海に向けて、
船の旅に出かけたこともあったのだ。

しかし、わたしはもっともっと昔のことを考えていた。
この港から、移民として、アメリカに渡った、祖父、祖母のことを考えていた。
粗末な貨物船で、1ヶ月かけてアメリカに渡ったと聞いている。

アメリカの農場での仕事は、言葉もわからず、過酷な労働であったに違いない。
その証拠に、祖母は、乳飲み児ひとりと、おなかにもうひとりをかかえて、
単身で、日本に帰ってきた。

その乳飲み児がわたしの母で、母はカルフォルニア生まれである。
祖父は、その後ひとりで頑張っていたが、ついに病をえて、帰国するはめになった。

とにかく、血の汗を滲ませて、アメリカで稼いだお金で、
彦根に土地と家を買い、祖父はすぐに亡くなった。
現在、わたしの家と、息子の家とが建っている地面である。

夜のとばりが、いつの間にか、すっかり下りてしまった。
海の向こうに見える、メリケンパークのオリエンタルホテルが宝石のように輝いている。
放物線を引き伸ばして、立体にしたようなふしぎな形のホテル。
整然と並ぶ窓のあかりも神秘的な色をしている。
ホタル色の発光ダイオードのようなあかりは、冥界からのひかりのような気がした。

2杯目のジョッキーを空にしたとき、
グラスの底に、ホテルのあかりがにじんだ。
この世のものとは思えないほど、きれいな色になった。
グラスの底を通じて、霊界とのチャンネルがつながったような気がした。

気分がよかったので、もう一杯飲みたかったが、
「それぐらいで、やめておきなさい」
一度も聞いたことのない祖父の声がグラスの底から聞こえてきた。



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sceneryの風景

もし、霊界というものがあるとするならば、
祖先と現在のわたしとをつなぐチャンネルは何かということを、
漠然と考えている。

少なくとも、行事として、お墓参りにゆくことや、
お坊さんを呼んで、法事をすることではない。
このような行事は、すべて、生きている私たちのためにしているのに過ぎない。

祖先が何かを感じてくれるとするならば、
子孫が発する、日常の生活からの喜びとか哀しみのストレートな感情の波動だと思う。

苦労の連続であった祖先も、
祖先の苦労が、現在のわたしたちのよろこびに変わっているということが伝われば、
祖先も満足に違いないと、勝手に思っている。

わたし自身が、祖先になったとき、
子孫から、喜びの波動が伝わってくるような世の中をめざしたいね。

その点で、今回の選挙は、子孫に対して、祖先としての
重大責任がある選挙だと思います。
みなさん、投票には必ず行ってくださいね。
このオチはちょっと強引でしたね。

青春18での、残りもう一回の旅行は、
名古屋から中央線に乗り換えて、中津川、木曽福島、奈良井にまで足をのばしました。

この旅は日帰りではスケジュール的にちょっときつかったです。
でも、きわめて安く上がりました。
時間がギリギリだったので、昼食も夕食も、駅弁を買って、
汽車の中で食べざるを得なかったのです。
出費は、駅弁代と缶ビール代だけでした。



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