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            日常の風景   NO.0134
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緋毛氈のふたり

人間ドックの検査を受ける病院は、京都の東寺の近くにある。
2日目の検査をすべて終了した後は、
東寺をゆっくりと散策するのが、この3年来の習慣になった。

東寺の紅葉は今年が最高だった。
紅葉の見ごろは年々遅くなっているので、
たまたま時期がよかっただけなのかもしれない。
絵葉書を見るような通俗的な景色だが、わたしは通俗も大好き。

真っ白な玉砂利が敷かれた道の両側に、
よく手入れされ、切りそろえられた緑の庭木。
すっきりと真っ直ぐに立つ、レモンイエローに輝くいちょう。
小ぶりだが数の多い、真紅のもみじ。
なにより、中央にそびえる五重の塔が完璧な風景を演出している。

入場料は500円。
敷地のほぼ中央に横たわる、黒塗りの鉄枠は無粋だが、
これは500円の結界である。
500円さえ支払えば、この頑丈な結界もいとも簡単に破れるのだが、
その必要性はまったく感じなかった。

赤色、黄色、橙色などのカラフルな木々たちは、
鉄枠のこちら側に居るものにも、分け隔てすることなく、
その愛想を充分に振りまいていてくれる。

鉄枠にもたれるようにして、紅葉を愛でていると、
入り口の茶店に座るふたりの女性が目についた。
はなやかで大きな緋の傘の下に、
緋毛氈を敷き詰めた、床几(しょうぎ)があり、
そのうえにふたりは座っていた。

ふたりとも、もう60歳は越えているのだろう。
それぞれ、上品な黒と薄紫のコートに身を包んでいる。
ひとりは、黒い帽子もかぶっていた。帽子から白髪がのぞいている。
床几の上には、お薄の入った茶器と上品な京菓子が置かれていた。

お菓子を食べるのも忘れて、ふたりは話に夢中になっている。
そして、ひっきりなしに笑い転げていた。
その所作はまるで少女のように無邪気なものだったが、
茶道でもたしなんでいるかのような、優美さと気品とが感じられた。

入場料を支払って、鉄枠の外から京都らしさを鑑賞しているような気分だった。
あのふたり、京都に観光に来て、逆に観光されているとは、
夢にも思っていないに違いない。

だてに年を経てきたわけではない。
すてきな年の取り方をしていると思った。



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sceneryの風景

どれだけ通俗的なところであっても、
観光地というのは、はなやかでいいですね。
わたしは大好きです。

旅の目的のひとつには、機嫌のいいひとを見に行くというのも
あるのかもしれません。

旅に出たひとというのは、例外なしに、みんな笑って、
くったくのない顔をしていますよね。
機嫌のいいひとに囲まれていると、
旅人でもないのに、わたしまでが旅に出ているような気がします。



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