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            日常の風景   NO.0124
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クマゼミを捕らえる

明石駅を下車したのは、強い陽射しがギラギラと照りつける、真夏の昼下がりだった。
明石という名前はよく耳にするが、駅に降りるのははじめてである。

明石駅のプラットホームから、お堀と石垣など、城跡のような公園が見えたから、
ふと気まぐれに降りてみたのである。
青春18切符ならではの、自由な旅だった。

城跡は、よく手入れされた芝生の緑があざやかな公園だったが、
適当な日陰がなく、ほうほうのていで、通り抜けた。
誰のお城で、どのような歴史があったのか、
案内板さえ読む気がしなかったので、まったく不明のままだ。

モールでおおわれた商店街を通り、城とは反対方向の海を目ざすことにした。
明石大橋が見えるはずである。

明石だこで有名な明石は、やはり海産物の町だ。
モールのあちこちで海産物の店が、景気のよい掛け声をかけている。

「兄ちゃん、これ一箱もっていき、安しとくで」
魚屋のハッピを小粋に着こなした若者が、
あじやいわし等の小魚がいっぱい入った、ボテ箱を手かぎでたたいた。

明石だこはあまり豊漁ではないみたいだった。
あるにはあったが、まるでイイダコのように小ぶりなものが多かった。

モールを抜けると、海に続く、大通りにでる。
夏の陽射しがまぶしくて、暑い。
歩道には街路樹が、一定の間隔で並んでいた。

ぶらぶらとではなく、げんなりとして、ふらふらと歩いていた。
そんなときである。
まるでわたしに、気合を入れるかのように、耳元で
「シャーシャーシャー」とクマゼミが突然やかましく鳴きだした。

人が盛んに行き来する、歩道の街路樹にもかかわらず、
わたしの目の高さぐらいで、鳴いているクマゼミが見える。

背を低くし、幹に沿って、下のほうからそろそろと手を伸ばし、
一呼吸置いて、ぱっと捕まえに行くと、
信じられないことに、クマゼミは呆気なく、わたしの手の中にあった。

黒く光沢のある大振りなボディ、透明で優美な羽根。
手の中で羽根を小刻みに震わせる感触がなんともここちよい。

子供の頃は、アブラゼミやニイニイゼミはいくらでも捕れたが、
クマゼミは別格だった。
「シャーシャーシャー」という鳴き声は聞こえるのだが、
その姿を見つけるのでさえ、容易ではなかった。

大木の高い高い場所で、クマゼミは鳴いていた。
クマゼミを捕らえた少年は、英雄だった。
毎日ほど網を持ってセミを捕らえに行っていたのに、
クマゼミの捕獲に成功したという記憶がない。

もうすこし、少年時代にかえって、余韻、感激、感慨に浸っていたかったが、
隣の相棒が、
「放してやり、かわいそうに、セミの命は1週間なんよ」
などと、正論をいうものだから、
未練たっぷりに、しぶしぶ、手を広げたら、
あっという間に、セミはわたしの視界から消え去ってしまった。



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sceneryの風景

大阪に行く用事があった。
彦根駅で、切符を買おうと、販売機の前まで行ったのだが、
ふと、青春18というポスターが目に入った。

そうだ、夏休みの今は、青春18切符が使えるのだ。
彦根から大阪まで1890円。往復で3780円。
青春18なら、2300円で行ける。

あとさきを考えることなく、反射的に青春18切符を買ってしまった。
青春18切符は安いのは安いのだが、
5枚がセットになっているのが、唯一の欠点である。

でも、旅行の計画より先に取りあえず、切符を買ってしまうというのも、
行動を起こすバネになるとい点で、悪いことではない。
相棒と一緒に、日帰りの旅行なら2回。宿泊なら1回。
まるっきりゼロの状態から、あたまのなかはたちまち旅行の準備モードに切り替わった。

数日後、日帰りで姫路の書写山円教寺に行くことにした。
理由は単純なもので、円教寺に行ってきた知人からスナップ写真を見せたもらった。
ただ、それだけの理由である。
トムクルーズ主演の映画「ラストサムライ」の撮影に使われたという建物にも
多少は興味があった。

今回の旅行は、姫路からの帰り道、明石で寄り道をし、
夕食は、神戸のハーバーランドに行った。
ふらふらと気の向くままに寄り道ができるのが、青春18のいいところだ。

話は変わるが、この間、文学の昔からの友人に、このセミを捕らえた話をしたら、
わたしの子供の頃の、クマゼミとは違うらしいのである。
そういえば、クマゼミにしては、多少、小ぶりだった。

熱帯から来たクマゼミがやたら繁殖しているらしい。
昔はセミの脱皮は、夜、木の幹でと決まっていたが、
最近のセミは道路上でも脱皮するらしい。どこかおかしい。

やはり、温暖化によって、昔からの生態系が、次々と壊れている。



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