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            日常の風景   NO.0130
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ブダペストの温泉

ハンガリーは温泉天国だということは、知識としては知っていた。
ブダペストの観光案内地図を広げてみると、なるほど
あちらこちらに温泉のマークがある。

ガイドブックによれば、ブダペストだけで100以上の源泉と、
50近くの温泉浴場があると書いてある。

ホテル・ゲッレールト内にある、ゲッレールト温泉は
市街地の中心からはすこし離れた場所でドナウ川沿いにあった。
「地球の歩き方」には、ブダペストで一番有名な温泉と書いてある。

温泉の入り口で、チケットを購入するところまでは、
英語が通じるし、何の問題もなかった。
相棒はマッサージも頼みたいというので、
マッサージのチケットも同時に購入した。

ロビーは、顔をほんのりと赤く上気させた、湯上りの人や、
これから温泉に浸かろうという観光客や地元の人でごったがえしていた。
だが、暖簾が垂れているわけでもなく、入り口がよくわからない。
まわりの人に聞いても、ことばが通じない。

ようやく、入り口らしい場所を教えてもらったが、
男女は別々の入り口だった。

中を進むと、若い男が、手ぬぐいのようなものを手渡してくれた。
一本の紐にそまつな白い布がぶら下がっているだけのフンドシである。
水着を見せると、うなずいて、わたしの手からフンドシを取り戻した。

若い男の身振りに従って、2階への階段を上がる。
2階にもまた、やや髪の薄い中年の男がいた。

中年の係員は、わたしを白いカーテンで区切られたある部屋に案内した。
たたみ一畳ぐらいの部屋で、奥にロッカーがあり、横手に簡単なベッドが設置されている。
あまりきれいな部屋ではない。ベッドもかなり古い。

着ているものを脱ぎ、水着に着替えると、
中年のおじさんがまた来て、ロッカーの鍵をかけてくれた。
再び1階に下りて、ようやく温泉にたどりつく。

ローマ時代の浴場のような雰囲気をもつ温泉は、
30人ぐらいは楽に入れそうな大きな丸い浴槽が2つあった。
パルテノン神殿に使われているような円柱がまわりをぐるりと取り囲み、
適度なほの暗さが、なんとなく気分を落ち着かせる。

だが、ぬるい。湯船のひとつが36℃。もうひとつが38℃である。
日本人がイメージする温泉というよりは、ぬるめの温泉プールという感じ。
地元の人たちにとっては、温泉は社交場なのだと思った。
年寄りのグループがあちらでもこちらでも、のんびりとおしゃべりを楽しんでいる。
湯につかりながら、1時間でも2時間でも話し続けていそうないい雰囲気だった。

蒸気風呂やサウナなどもあったが、こちらもぬるい。
サウナの温度は60℃〜70℃ぐらい。
ひと通りの探検が終わってしまうと、
話し相手もいないし、何もすることがなくなった。

このときになって初めて、入り口で左右に別れた相棒のことを思い出した。
どうしているのだろう。
無事にマッサージはしてもらえたのだろうか。
なにしろ彼女が得意なのは唯一、日本語だけである。

打ち合わせをする間もなかったのに、
ロビーで、相棒の顔を見つけたときには、正直ほっとした。
「びっくりしたわ、ここのマッサージはすっぽんぽんでするのよ」

風呂上りのなんとなくけだるいような、呆けたような気分を楽しみながら、
ロビーのテーブルで熱いコーヒーをすすった。
相棒は風呂場での冒険を、途切れることなく話し続ける。

ゲッレールト温泉のガイドブックも懸命に読んでいるので、
「そんなもんは事前に読んどくもんやろ」
というと、
「いやー、読んどかんでよかったわ」
とにこにこしながらいう。

「見て、マッサージをしてもらったら、その後チップを払うと書いてある。
わたしはそんなこと知らんかったから、サンキューサンキューゆうただけ。
読んどかんでほんまによかったわ」



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sceneryの風景

たったひとつの温泉を経験しただけなので、
こんなことをいう資格はないのですが、
やはり、温泉は日本の温泉がいちばんです。

ブダペストの市民を日本の温泉に案内すれば、
間違いなく、熱い、熱すぎるというでしょうね。

温泉の温度は、それぞれの国の文化なのですから、別にしても、
たとえば、ちょっと豪華なヘルスセンターのようなところに
案内するだけで、たぶんびっくりすると思います。



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