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            日常の風景   NO.0128
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プラハのスリ

プラハの地下鉄は、はじめて訪れる外国人にもとても利用しやすい。
3つの路線のどれかに乗れば、たいていの観光ポイントにはすぐに行ける。

緑、黄色、ピンクの3色で色分けされたそれぞれの路線は、
案内板も視覚的でわかりやすい上、改札口もない。

3日間のフリーパスを購入してしまえば、地下鉄だけではなく、
地上を走るバスとかトラムなどにも自由に乗れる。
観光地らしい配慮があちこちで行き届いている。

改札口がないということは、無賃乗車も自由にできそうではあったが、
3日間のうち一度だけ、地下鉄の構内で検札を求められた。

ただ、地下へもぐるエスカレータにだけはなかなか慣れなかった。
2層、3層と掘られた地下がとてつもなく深いから、
50メートル以上あるエスカレータの勾配が急なうえ、
階段の流れるスピードが信じられないほどに早い。

最初に乗って、下を見下ろしたときは、
あたまがくらくらとして、めまいを起こしそうであった。

地図をあまり見なくても、地下鉄が利用できるようになった、
プラハ2日目の朝のことである。
通勤客で、地下鉄はそこそこ混雑していた。

わたしたちは、車両の一番後ろに座り、降りる駅をカウントしていた。
一応車内放送はあるのだが、チェコ語での駅名は聞き取りづらい。
乗った駅から、いくつ目の駅で降りるということを把握しておくのは
とてもたいせつなことであった。

やがて、電車は目的地に到着した。
乗り換えのキーステーションなので、かなりの人が立ち上がり、
車両のドアが一斉に開いた。

わたしたちが降りようとしたドアだけを除いて。

閉じられたドアの先頭にいる男が、突然、ドアの強化ガラスをどんどんと激しく叩いた。
薄汚れた白いカッターシャツを、だらしなく肘まで捲り上げ、
チェコ語で何かを汚くののしりながら、
ドアを叩き、両手で派手で乱暴な音をたてるのである。

わたしはすこしあせった。
このまま、ドアが開かないと、降りるまでに電車がでてしまうような気がしたのである。
開いている次のドアに移動しようとすると、
背の低いアラブ系の顔をした、髭の剃り跡の濃い若い男が、妙にわたしの進行方向を妨げるのある。

ほとんどの乗客の視線が、ドアに釘付けになっているなか、
その男ひとりが、わたしを見るでもなく、見ないでもなく、
あらぬ方向を見ている。焦点の定まっていないポカンとした表情が印象的だった。
まるでレンブラントの絵画のように、車内でその男だけにひかりが当たっていた。

わたしは、半ば強引にその男の背後に回った。
相棒がわたしの後に続いているはずである。

そのとき閉じられていたドアが急に開き、乗客が一度に殺到した。
もみくちゃになりながら、ようやく電車を降りたとき、
後ろの相棒が鋭く、切迫した声を上げてわたしの名前を呼んでいるのに気がついた。

いつもは沈着冷静な彼女があわてている。
「スリや」
「なんか取られたんか?」
「いや、なんとか無事やと思う」
半ば、チャックの開けられた鞄の中身を確かめながら、相棒は言った。
「どいつや」
「あいつ」
相棒が指差したのは、あの印象的なアラブ男だった。
何事もなかったかのように、ゆうゆうと電車を降りて、足早に立ち去っていった。



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sceneryの風景

迫力のあるプラハのエスカレータをご覧ください
http://www.za.ztv.ne.jp/magmaria/photo/up-no1/up-no1.html

旅行の写真がやっと整理できました
http://www.za.ztv.ne.jp/magmaria/photo/wien/wien.html

落ち着いてよく考えてみれば、
ドアを叩いていた男とスリの実行犯は完全にグルです。
おそらく、足でドアをブロックしながら、ドアを叩いて
注意をそらせたのだと思われます。

それにしても、巧妙な手口です。
みなさんも、海外でもし何か騒ぎに巻き込まれたり、
普段とは違うシチュエーションに出くわした場合は、
まず、自分の身の回りのものを確かめてくださいね。

話しは変わりますが、わたしは音楽が大好き。
演歌を除いて、クラッシックからフォークソングまであらゆるジャンルの音楽を聴く。
だが目を閉じて、音楽だけを聴いているということはほとんどない。
何かをしながらBGMとして、聞き流していることがほとんどである。

今年はじめ文学仲間のBBSで、音楽の話題で盛り上がった時期があった。
四国の仲間から、今わたしは、スメタナの交響詩「モルダウ」を聴いています
という書き込みがあった。
京都の仲間からは、シューベルトの歌曲「冬の旅」を聴いていますという書き込もあった。

早速DVDに録画してあるNHKの「名曲アルバム」を取り出してきて、
「モルダウ」を聴き始めた。
流麗な旋律とともに、テレビの画面からは
チェコのプラハのうつくしい街並みが映し出された。
スメタナはなんといってもチェコ音楽の父なのだ。

シューベルトの歌曲「冬の旅」を聴いているときは、
画面にはなつかしいウィーンの街並みが流れた。
シューベルトは生涯を通じて、そのほとんどをウィーンで暮らしている。

音楽にゆかりのある、うつくしい風景を見ながら、音楽を聴くのも、
わたしが好きなスタイルひとつだ。

地図で調べてみると、ウィーンとプラハはほんの近く。
列車を使えば、わずか5時間の移動にすぎない。

ふたつの音楽を聴きながら、今年の旅の目的地が、
まるで天から啓示を受けたように決まった。

ウィーンとプラハ、ついでにハンガリーのブダペストに足をのばすことに決めたのには
このような経緯があったのです。

インターネットを通じてのコミュニケーションというのは、
それぞれが考えている以上に、互いに深く影響しあっているのかもしれませんね。



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