*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*
            日常の風景   NO.0135
*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*

遊歩道の処女雪

部屋はレースのカーテンで閉ざされているのに、
まわりがいつもよりなんとなく白っぽい。
玄関のドアを開けると、12月にしては信じられないほどの大雪である。
4、50cmはしっかりと積もって、まだ降り続いている。

家を出るのをいつもより10分は早めようと、堅く心に誓った。
だが、温風ヒータを入れ、床暖房のフローリングがあたたまってくると、
外の厳しさとは打って変わって、部屋の中はなまぬるい別天地になる。
結局、家を出たのはいつもとおなじ時間になった。

粉雪は途切れることなく、まだ降り続いていた。
ブーツは、凍てついた雪道ではすべりやすく、早足では歩けない。
遅刻しないために、最短距離をと考えたのが、大失敗だった。

職場への最短距離は、お堀端の遊歩道である。
観光道路であるが、早朝の雪道を歩く観光客はひとりもいない。
だから、遊歩道は雪で完全に閉ざされていた。

しかたなく、雪に埋もれた遊歩道を横目で見ながら、車道を歩く。
処女雪の白い帯が、お堀端に沿って、わたしを誘うように伸びている。
雪の車道は危険きわまりないし、その誘惑にのりたかったが、
ブーツが沈み込んでしまうほどの雪では、どうしようもなかった。

遊歩道の処女雪はずっと続いていたのだが、ある場所から、
犬の足跡と、飼い主が歩く長靴の足跡が目についた。
多分、犬がせがみ、飼い主が妥協したというところだろうか。

長靴の足跡は、真ん中を一歩一歩規則正しく歩いている。
だが、犬の足跡は、あちらにいったり、こちらにいったり、ひっかいたり、
目を凝らしてよく捜さないとわからない。

とにかく、犬は喜んで、大はしゃぎしているのに、
飼い主はしぶしぶという形跡が、なんとなくわかるのである。

京橋を過ぎる頃になると、この遊歩道は地元の高校生の通学路にもなる。
雪かきをしてあるわけではなかったが、ひとの足跡で細い道らしきものができつつあった。
こちら側の特徴は、犬ではなく、自転車のわだち。

自転車を押しながら、ひとが歩いている様子がくっきりと雪の跡に残されている。
特に、反対方向から、押し引きの自転車どうしが鉢合わせし、
難儀してすれちがった跡などが、くっきりと残っている。

処女雪の白い帯がどこまでも続く風景は、それなりに趣があるが、
すぐに退屈して、興味を失った。
でも、人が雪とがかわりを持った痕跡をたどるのは、退屈しない。

退屈はしなかったけれど、みごとに遅刻はしました。
ヤレヤレ。



----------------------------------------------------------------------
sceneryの風景

滋賀県は、気候に関しては、日本を縮小したようなものです。
北部と南部とでは、北海道と九州ぐらいに違うのです。

その北部でも、北部の北、北部の中、北部の南とで違います。
彦根市は位置とすれば、北部の南ぐらいです。
今回の大雪、彦根は50センチぐらいでしたが、
北部の北の方は2メートルを越えています。

景色としての雪は決して嫌いではありませんが、
生活のなかの雪はほんとうに大変です。

職場には2.3分遅刻しましたが、
ラッキーなことに、汽車も遅れていて、
1/3ぐらいはまだ職場に入っていませんでした。


わたしの友人で、優れた詩人がいます。
この場で最近の短い作品を紹介させてください。
どんな詩人なのか、興味があれば、いちど「ゆきなかすみお」で
検索してみてください。

--------------------------------------------------------

金魚のうた
ゆきなかすみお
 
ドシャ降りの,吹き降りの凄い雨。
台風の影響だとテレビは言っていたがなんせ、もの凄い。
傘なんて役にたたないからカッパに長靴。
なんぼでも降れ!やけくそで歩いていると、
ミカン箱の上に金魚鉢が乗って雨にうたれていた。
この家の子供が仕舞い忘れたんだろう。
雨はバシャバシャと金魚鉢にも容赦ない。
中の金魚は赤いのと白いのと、まだらと、
どんどん入ってくる新しい水におそらく喜んでいるんだろう、
ひらひらと、のんびりと、嬉しそうに泳いでいる。

止む気配もない雨。

まもなくだ、一線を超えて,
あふれて、流されて、広いところへ出て行くのは。

--------------------------------------------------------

金魚のうた sceneryの感想

金魚鉢は、平和憲法の象徴として描かれています。
なかに入っている金魚は、国民、とくに若者の象徴です。

雨の解釈はちょっと悩ましいところですが、
自分自身の意見を持つことなく、流れ、流されてゆく、無関心さでしょうか。

わたしなら、小雨ぐらいにしか感じないのですが、
作者は戦争への足音をどしゃぶりの雨のように感じている。
その感じがよくわかります。

やがて、金魚はまったく気づかないうちに、
金魚鉢の外に押し出される。
金魚鉢の外に押し出された、金魚の運命は、誰が見てもあきらかです。

多分、作者は、わたしの解釈とは違うというと思います。
でも、すぐれた詩というのは、こういうものです。

わたしが思ったようなことを、散文で表現しようとすれば、
原稿用紙で10枚以上は必要でしょう。

詩という表現形式のすぐれたところは、
たったこれだけの短い言葉で、読者に長々と書いた散文以上のインパクトを与え、
いろんなことを想像させるということでしょう。

説明や、生の情念のようなものを一切書かずに、
モノだけを描写し、それが成功すれば、
読者は、それぞれの立場で、いろんなことが想像できるのです。

いろんな解釈ができるということは、
もうそれだけで、詩が生きて、一人歩きを始めているということです。



----------------------------------------------------------------------
発行者 scenery
north@arion.ocn.ne.jp
HP 日常の風景
http://www6.ocn.ne.jp/~scenery/

----------------------------------------------------------------------
このメールマガジンは、

『めろんぱん』 (マガジンID: 2179) http://www.melonpan.net/
『メルマ』  (マガジンID: 50779) http://www.melma.com/
『まぐまぐ』 (マガジンID: 79888)   http://www.mag2.com/
『メルマガ天国』 (マガジンID: 8289)   http://melten.com/
『E-Magazine』 (マガジンID: scenery1) http://melten.com/
『Ransta』 (マガジンID: 2403) http://ransta.jp/
『カプライト』 (マガジンID: 4327) http://kapu.biglobe.ne.jp/

を利用して発行しています。

----------------------------------------------------------------------
メールマガジンの退会・解除は
http://www6.ocn.ne.jp/~scenery/  からお願いします
----------------------------------------------------------------------