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            日常の風景   NO.0123
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ゆうすげ

前号「高原の風」の続きです。

息子夫婦には、1歳を越える子供がいるのだから、
もう、新婚とは言えないのかもしれない。
そういえば、日常の風景48号に息子の結婚式を「チャペルにて」
という題で書いた記憶がある。2003年のことである。

自分自身の、大昔の遠い記憶をたぐり出しながら、
できるたけ、夫婦ふたりだけにしてやろうと、
颯を抱き上げては、草原を散歩したのであるが、
颯は、抱かれているのに飽きると、突如、軟体動物に変身した。

両手を空に上げ、全身の力を抜き、くねくねと
からだをくねらすので、思わず落としそうになってしまう。
下におろすと、颯はやはり、両親のいる方向に、
たどたどしく体全体を揺らしながら草原のなかを駆け去るのである。

草原のなかに、白、ピンク、黄色、青、色とりどりの、
高山植物が咲き乱れているが、
植物の名前や生態がまったくわからないわたしには、
「高原に咲く花」という、漠然とした印象しか語れない。
このことは非常に寂しいことだとふと感じた。

この、伊吹山に来るまでに、わたしたちは、
関が原の古戦場の跡をドライブしていた。
彦根からくるまでわずか30分ほどの距離である。
古戦場という背景がなければ、関が原はこれという特徴のない町だ。

中仙道、北国街道、伊勢街道が通過する交通の要所ではあった。
現在は、国道21号線、国道365号線としてそのなごりをとどめている。
昔なら、合戦をするのに好都合な、広々とした盆地が広がっていたのだろうが、
現在は、どこの町にでもあるような、混沌と混乱とでぶよぶよしているだけの町。

だが、町中には、石碑や案内板があふれている。
徳川家康とか石田三成などの超スターでなくても、
たとえば、島左近、宇喜田秀家、大谷吉継、細川忠興、本田忠勝
などの名前を看板で見ると、何がしかの感慨が沸き起こる。

伊吹山で高山植物の花々をながめながら、
せめて、関ヶ原の武将に関する、半分の知識でもあれば、
ずいぶんと印象はちがうのだろうと、とりとめもなく高原を歩きながら考えていた。

お花畑のなかで、いちばん目立っていたのが、
淡いレモンイエローのユリのような花。
いたるところに群生している。
ただ、時期が早いのか、今にも咲き出しそうなのに、
咲いている花はひとつもなかった。

夕方の5時を回ったころから、群生しているつぼみの周りで、
カメラマン達がざわざわと撮影準備をあちこちではじめた。
満開になったときの予行演習でもしているのだろうと、
気にもとめなかったのだが、ふと気まぐれに、
「この花、なんという花ですか?」
と、カメラマンのひとりに聞いてみた。

「きすげというの」
三脚の位置を調整しながら答えてくれた、女性は、
かなり年配だったが、理知的な感じの上品なひとだった。
白いブラウスに、山歩き用の薄い黄色のスラックス。
縁なしの眼鏡がよく似合っていた。
元、学校の先生といった雰囲気である。

「そうね、ここらあたりではゆうすげともいうわよ
この花はね、夕方から咲き始めるの」
「そうですか。だからみんなカメラの準備をしているんですね」
群生している花をあらためて見ると、こころなしかふっくらとしてきている。

「夕方から咲き始め、真夜中に満開になって、朝になったら枯れてしまうの」
「たった一日しか咲かないのですか?」
「そう、一日花なの。その代わり、次のつぼみが膨らむの、
満開のゆうすげは、それはそれはいい香りなのよ」

真夜中を待たずに、わたしの心の中で、ゆうすげが満開になった。
すてきな甘い香りを放ちながら。



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sceneryの風景

歳月は流れるものですね。
2年前に書いた、息子の結婚式「チャペルにて」
もし、興味があれば読んでみて下さい。

http://www6.ocn.ne.jp/~scenery/sample/03-1/chapel.html

それから、ひとつお詫びをします。
前号の「高原の風」を配信後、休筆の理由をはっきりとは書かなかったものですから、
心配した数人の読者の方から、メールをいただきました。

読み返してみて、この内容なら、誤解をあたえても、仕方がなかったのだと、
非常に反省しております。
伊吹山にわたしの相棒が行けなかったのは、
たまたま息子が誘ってくれた日曜日に勤務だったからなのです。

休筆のほんとうの理由は、わたしの文学仲間のBBSに書きました。
もし、時間があれば読んでください。

http://8531.teacup.com/skamiga/bbs

大分前に書いたものですから、3ページほどバックしてください。
現在でしたら、前頁4でジャンプできます。

「久々の近況です」  投稿者: scenery  投稿日: 6月25日(土)10時19分58秒

という、BBSの書き込みです。

それにしても、みなさま、いろいろとご心配をおかけしました。
ほんとうに感謝しています。
いただいたメールには、誤解であったとしても、とても勇気づけられました。
ありがとうございます。
今後ともどうかよろしくお願いいたします。

深く傷つくのも人から。
そして、それを癒してくれるのもまた人なのです。
今回の伊吹山は、すてきな癒しの時間でした。



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