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            日常の風景   NO.0152
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五山の送り火

「教会のことやから、ごちそうは何んにもないよ」
8月16日の京都の大文字に誘ってくれた友人は女性だが、
さっぱりとした豪快な口調でそういった。

普段は、教会の集会場として使用されているのだろう、
20人ぐらいは楽に集まれそうな、実用本位の簡単なテーブルと椅子が用意されていた。

テーブルの上には、三角形に握られた白米のおにぎり。
おにぎりの横には、教会の信者さんたちが揚げてくれたらしい、
鶏の唐揚げが大皿に山盛りになっていた。

わたしたちのグループは、さらに、露店で手に入れた、
からしのたっぷりとついたフランクフルト、氷でよく冷えたビールが持ち込まれた。
隣には相棒がいて、テーブルの前には、気心の知れた昔からの文学の仲間がいる。
ごちそうはないが、これだけ揃っていればそれ以上もう何も言うことはない。
カレー味に調理された野菜炒めの大皿までが、いつの間にか各テーブルを巡っていた。

集会場の窓からはすぐ傍を流れる加茂川が見える。
大という形におおきく削り取られた、東山の山肌が真正面に見える。
京都の風物詩、五山の送り火の点火を待つのには、これほど恵まれた場所も少ないだろう。
ほどよく冷房の効いた部屋に、友人がいて、冷えたビールがあって、
点火の様子を逐一観察することもできる。

午後8時。
予告どおり、点火が始まったが、なんとなくぐずぐずとした感じである。
なかなか完全な、大、の字にはならない。

点火がはじまると、かなりの人は、恵まれた環境を放棄して、
蒸し暑さの続く、不快指数の高い外界に飛び出してゆく。
わたしたちも全員外に出た。

外界で観る、生の大文字は、やはり全く雰囲気がちがう。
まとわりつくような真夏のくうき、加茂川の水の音、人々のざわめき。
これらすべてが、長い歴史と文化のにおいがする。

透明の硝子越しに観ても、景色はまったく変わらない。
文明の力を借りて、一番合理的に見る方法は、
涼しい場所で冷たいビールを飲みながの硝子越しの見物である。

正直な感想をいえば、ビジュアル的に大文字というのはまことに地味な行事である。
もたついた、仕掛け花火という感じさえする。
時間もわずか15分。
そのうち大という字に赤々と燃え盛るのは、わずか5分間ほどである。

松の薪を燃やしたり、護摩木を燃やすそうだから、それも仕方がないことである。
文明の力を借りて、豆電球や、大掛かりな仕掛け花火でこの行事を執り行っても、
庶民の賛同は決して得られないと思う。

紛れもなく、これは歴史と文化の力である。
多くの外国人も見物に来ていた。
汗をびっしょりとかきながら、カメラを構えて、この地味な伝統を記録するのに懸命だった。

「ワッ!!」という大歓声が上がったので、加茂川の橋の上から北のほうをみると、
妙法という送り火の上の部分だけが明るく輝いて見えた。
日本の文化もいいものだと、手に持った缶ビールを思い切り飲み干した。



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sceneryの風景

定年後、時間ができたので、今まで見落としていた、あらゆるものに目を配ると、
実際に目にしてきたものより、見ていないものが圧倒的に多いのに、
自分でも驚きます。

特に、近くにあって、いつでも観られるとタカをくくっていたもののなんと多いこと。
大文字で有名な、京都五山の送り火もそのひとつでした。

その一週間ほど前には、なら燈花会にも行きました。
幻想的で、幽玄の世界を楽むことができました。
滋賀というところは京都にも奈良にも日帰りでも行ける、便利なロケーションなのです。

9月にはエジプト旅行を計画しています。
今まで、2度具体的に計画をして、そのつど治安の問題などを考慮して、
見送った国です。

今回は、今まで見送ったときより、より環境が悪いのかもしれません。
世界の平和を待っていれば、多分一生行けないでしょう。

開き直りというか、諦めというか、哀しい決断でもあります。



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