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            日常の風景   NO.0148
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ホーチミンでの冷や汗

飛行機の窓から見える巨大なメコン川は、鼠色に濁り、
幾重にもかさなって大きく蛇行していた。
窓からすこし離れて見ると、くねくねとうねっているメコン川は、
平行に走っている幾本かの川の流れのように見えた。

今は雨季である。
川には橋もない、堤防も見えない。
まるで洪水になったときに、新聞でよく見かける航空写真のようだった。

日本から、飛行機でわずか5時間足らずしか離れていないのに、
全くの別世界に来たという実感が湧いてきた。

ベトナムのホーチミン市で3泊する予定である。
わたしたちのホテルは、ドンコイ通りと呼ばれる街の中心部にあった。
ロケーションの良さも気に入って、このプランを選んだ。

地図で見ると、サイゴン川へは歩いてほんの5分ほどの距離である。
夕暮れのロマンチックなサイゴン川を眺めようと、
早速相棒を誘って、出かけた。

しかし、この国はやはり、日本とは全く違う仕掛けで社会が機能している。
屋台や、それをとりまく人々の喧騒にはさほど驚かなかった。
車に代わる、おびただしいバイクの流れにも、
まぁこんなものかとひとつの観光の風物詩として眺める余裕があった。

だが、サイゴン川と平行して走っている、大きな道路を、
横断しようと道路脇に立ったとき、呆然としてしまった。
6列、7列になって疾走するバイクと車の流れが途切れることなく続いて行くのである。

回りを見渡してみても、交差点はロータリー式で交通信号はない。
横断歩道もない。横断陸橋も地下道もない。
排気ガスでのどがざらつく感じを我慢しながら、
わたし達は10分間以上もその場に立ち尽くしていた。

ホーチミン市民は、そんなわたし達を横目で見ながら、
すいすいと涼しげに横断してゆく。
思い切って、地元の人の横にぴったりとくっついて横断することにした。
バイクの方がわたし達を避けながら通り過ぎてゆくが、冷や汗が出る。

空港からホテルに着くまでに、現地ガイドのフェイさんが、
「ゆっくりと歩いてください。走ってはダメです」と言っていたのを、
今頃になって思い出していた。

サイゴン川のほとりにある、露店のような喫茶店で、
ベトナムのビールをゆっくりと飲みながら、市民の横断方法を詳細に観察した。

車は右側通行であるが、さらにその道路の右半分がバイク、左半分が車と決まっている。
6列、7列になって走っているバイクだが、
日本のように全部の流れが遮断されることは絶対にない。

だが、道の手前のバイク2列分ぐらいにスペースができることはある。
その瞬間を待って、横断を始めるのである。
そうして、しばらく待つと、今度は中央部分に又すこしスペースができる。
それを待って、もうすこし中央まで進む。
バイクは歩行者の背後を、スピードを落とすことなく走り抜けてゆく。

バイクが歩行者を避けるのは、すべてハンドル操作である。
なまじ、スピードを落としたりすると、かえって危ないのかもしれない。

こうして、ホーチミンの歩行者は、バイクの流れにただよう浮き草のような感じで、
向こう岸までたどりつくのであるが、
これは、見ているだけでも肩に力が入ってくたびれてしまった。



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sceneryの風景

今回のベトナム、カンボジアの旅行は、ホテルが予約されているツアーに参加しました。
わずか2週間前に急遽思いついた旅行でしたので、
調べる時間も充分なかったし、ツアーにしたのですが、
今回はかえってこちらの方がよかったようです。

上記のような交通事情で、ガイドに街を案内してもらったほうが、
安心して観光することができました。
それに、ツアーといっても、わたし達以外にもう一組だけ、
全部で4人のツアーでした。

ベトナムといえば、わたし達の世代はベトナム戦争の鮮烈な報道が脳裏をよぎります。
飛行機から見た川をメコン川と決め付けましたが、
多分違うと思います。
でも、わたしにとって、ベトナムの川といえばメコン川なのです。

最初ホーチミン市というのが、どこにあるのかまったく分かりませんでした。
なんとなく感じとして、ハノイの近くにある街ぐらいのイメージでした。
でも、昔のサイゴンなのですよね。

サイゴンといったほうが、わたし達世代にはピンと来ます。
若い頃は開高健のベトナム戦争を背景にした小説などを愛読していました。
今回、旅を終えた今、もう一度読み返してみたいですね。



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