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            日常の風景   NO.0157
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カイロ空港にて

カイロ空港への到着予定は、18時ちょうどだった。
空港から外に出られるのは、間違いなくあたりが暗くなってからである。
このようなケースの場合は、初日のホテルだけは予約するようにしている。

インターネットから、市内の適当なホテルを予約したのであるが、
ホテルの予約票を手渡す手段がないので、
空港の送迎サービスも一緒に申し込んで欲しいといわれた。
仕方なく了承する。

空港では、わたしの名前の書いたボードをおおきく掲げて、
ひげ面の大男3人がずらりと待ち構えていた。

ウエルカムの挨拶を交わすと、ホテルの予約票をすぐに手渡し、
わたしたちのビザや入国の手続きなど、てきぱきと仕事をこなしてゆく。
いつもはわたし自身が行っている事なので、
お客様として、横にぼさっと立っているだけというのも、それなりに快適である。

ところが、ベルトコンベアに乗せられた飛行機の荷物がなかなか出てこない。
まわりからは、同じ飛行機に乗り合わせた乗客が、
荷物を受け取ってつぎつぎと立ち去ってゆく。

トラブルかなと一抹の不安がよぎる。
結局空港係員がわたしたちの荷物を勝手に下に降ろしていたことが判明した。

やれやれと思ったのも束の間、今度はあの3人が消失してしまった。
空港のどこを探しても見つからない。
なんとなく、空港の外に出てしまった。
外はもう暗くて、まるでサウナ風呂のようなむっとする暑さだった。

一度外に出てしまうと、今度は同じ通路からは再度入ることができない。
空港への入り口を求めて、ウロウロと探し回る。
外国への旅という高揚とした気分がだんだん惨めな、心細いものに変わってくる。

空港のロビーで途方にくれていると、
自称、政府関係者という30歳ぐらいの男が事情を聞いてくれた。
胸には写真つきの証明書らしきものがつけられている。

旅行代理店にも、自分の携帯電話をかけて、留守のようだと、
わたしにその携帯の呼び出し音を聞かせた。
リムジンでホテルまで送ってあげよう、
こんな場合はその料金を後から旅行会社に請求できると、熱心に説明した。

これは、間違いなく詐欺の手口だと、わたしはすぐに気がついた。
ガイドブックで読んだある詐欺のケースとまったく同じパターンである。
写真つき証明書にはアラビア語で「空港内立ち入り許可証」としか書いていないらしい。

それにしても慣れている。手が込んでいる。
ずいぶんと多くの日本人がだまされていそうな気がする。

その男を振り切り、自分で空港内の旅行代理店のブーツに行く。
黒いスーツを着た、ひげの若者は親切だった。
旅行会社に携帯電話をかけてくれて、話をしてくれ、わたしにも代わってくれた。
電話の向こうからは、野太い下手な英語で、そのような契約だったの一点張りである。

時間が経つばかりなので、ついにわたしも諦めた。
ひげの若者にホテルまでのタクシーを手配してもらう。
料金は75ポンド、日本円にして1500円だけのことだったが、疲れた。

ホテルについてから、プリントアウトしてきた契約書をゆっくり落ち着いて読むと、
なんと、「空港お出迎えサービス」と明記してあった。
電話の向こうの野太い声が正しかったのだ。
それにしても、大の大人3人が「いらっしゃいませ」と
空港に出迎えてくれるサービスとは一体何?



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sceneryの風景

エジプト・ドバイ旅行の写真です。時間があれば見てくださいね。
http://www.imagegateway.net/a?i=JCwhXbHnTo

ホテルまでの送迎サービスを申し込んで、
料金も支払済みだと思い込んでいました。

何もかも、旅行会社にまかせておけば、
ベルトコンベア式に、ホテルまではたどり着けると思い込んでいたので、
こんな簡単なことに手間取ってしまいました。

でも、ホテルについてから、もうひとつ大切な仕事が控えていました。
ほとんどスケジュールが未定だった、今回のエジプト旅行が成功するかどうかの鍵は、
カイロで2泊したあと、ルクソールまでスムーズに移動できるかどうかにかかっていました。

わたしは、ワゴンリーと呼ばれる寝台特急での移動を考えていました。
カイロからルクソールまで、約9時間。
ホテル代わりに、横になりながらの移動はきわめて効率的だと思ったのです。
しかし、列車が予約できなければ、絵に描いた餅になってしまう。

ホテルで一息入れると、すぐにタクシーを飛ばして、カイロのラムセス駅に急いだ。
もちろん、列車を確保するためである。
ラムセス駅は大きな駅で、夜にもかかわらず、人々でごった返していた。

旅行エイジェントはすぐに見つかった。
ぼろぼろの薄暗い事務所に係員がひとりだけ机に座っていた。

寝台特急の予約を申し出ると、寝台ひとり分で320ポンド。
地元の人が利用する特急の一等なら、コンパートメント式で、3人合わせてもわずか275ポンドだと、
熱心にこちらを勧めてくれた。

そんなときに若い警察官がぶらりと立ち寄ったのである。
まだ30歳にはなっていないだろう。なかなかハンサムで颯爽としていた。
係員から説明を聞くと、わたしについて来いという。

現地の人で混雑している、窓口にわたしたちを案内すると、
予約の一切をわたしに代わって取り仕切ってくれた。
あまりにも親切なので、胸の記章をよく見てみると、
トラベラーズポリスと書いてあった。旅行者のための警察官なのだ。

最後にチップを渡そうとしたが、それも受け取らない。
タクシー乗り場まで見送ってくれて、握手して別れる。
その手のぬくりもりがいつまでも残った。
空港でのトラブルというか、ざらざらとした気分が一気に解決したような気がした。



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