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            日常の風景   NO.0151
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ねね橋に佇んで

わたしはときどき空想するのである。
地域社会から、電柱や、野外の広告などが一掃されれば、
風通しがよくなり、空には大きな青空が広がり、
どれだけ清々とした気分になるだろうかと。

とにかく日本は、否、アジアの文化圏はゴミのような看板、
注意書きなどが多すぎる。

しかし、有馬温泉の露天風呂に設置されていた、
「湯船には段差があります。気をつけてお入りください」
の注意書きは、これは必要なものだと、めずらしく納得させられた。

「金湯」と高貴な名前がついていたが、
正直な感想をいえば「泥湯」という印象である。
そろそろと片足を湯船に沈めれば、赤土色に濁った湯がからみつき、
10センチ下が、もうよく見えない。

石垣をあしらって、野趣を盛り上げようとしている湯船。
その石垣にも、温泉の鉄分がたえず塗りつけられてはっきりとした境界ができている。
特に、お湯の注ぎ口は、朱色の漆を重ね塗りしたような光沢があり、
遠くから見ると、まるで海の中の珊瑚のようにも見えた。
いい湯加減で、ゆったりとしたいい気分である。

太閤秀吉さんやねねさんが何度も湯治に訪れたという歴史あるこの有馬温泉。
温泉街はやたら、秀吉さん関係の史跡が多い。
大好きなビールをたらふくいただいて、情緒が残る温泉街をそぞろ歩く。

温泉街の一部は、有馬川沿いに続く。
その有馬川は、観光客むけによく整備されていて、
豊かとはいえない水量を、コンクリート作りで深い水路を掘り、
水流を中央に集中させて、豊かで早い流れを演出している。

夜に見れば、人工的なあざとさは消え、
水面は赤や青のネオンサインのひかりを妖しく反射させ、
野性的で情緒ある水音をたえず奏でている。

ねね橋の上に佇んで、太閤橋を眺める。
昼間見たねね橋の欄干は安っぽい朱色に塗られていた。
新興宗教のお稲荷さんの鳥居のような色だった。

ところがである。夜の闇で一筆、沈み込んだ深い黒が加わわると、
その安っぽさが、官能的な色彩にみごとに変化していた。
酒の酔い、水の音、どこからか聞こえる適度に享楽的な歓声。

いつの間にかわたしは、ねね橋のぎぼしを抱きかかえていた。
右手がぎぼしの柔らかな曲線、くびれの中にすっぽりと納まってしまう。
ためしに、ぎぼしに頬ずりをしてみると、これまた肌理の細かな感触で、
ひんやりとして、酔いに火照ったほっぺたの気持ちが実によい。

こうして、ぎぼしに恋した有馬の夜は、静かにふけてゆくのでありました。



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sceneryの風景

遅くなりましたが、前号で約束しました、
ベトナムとカンボジア旅行の写真です。
時間があれば、見てください。
http://www.imagegateway.net/a?i=KkIgbYxnTo

退職後のわたしの大きなテーマは、
国の内外にかかわらず、まだ訪れていない有名な場所があれば、
機会があれば、必ず行く。機会がなくても、できるだけ作るというのがあります。

アンコールワットを見に行ったのもそうですし、
今回の有馬温泉もその一環です。
有馬温泉は、リベンジの意味もありました。

実は、10年ほど前にも、宿の予約もなしにぶらりと泊まりに行ったことがあります。
ところが観光案内所で紹介される宿は、どの宿も一泊3万円以上でした。
3人でしたから、1泊するだけで10万円。

さすがにこれではたまらないと、車で神戸の町まで降りて、
三の宮のビジネスホテルに宿泊した思い出があります。
いい想い出にはなっていますが、一敗地にまみれた有馬温泉という印象が強く残りました。

デフレはいろいろとたいへんでしたが、
狂乱していた贅沢の価格を適度な庶民レベルまで引き下げたという功績も
忘れるわけにはゆきません。

上記のテーマにもとずいて、今回はついでに、
宝塚の「手塚治虫記念館」
東大阪市の「司馬遼太郎記念館」
も訪れました。

ふたりとも、わたしには大きな影響を与えた漫画家と作家です。
ふたりについて書き出すと、膨大な紙面になりますので、
日をあらためて別の機会に書いてみたいと思います。

わたしにとっては特別な思い入れがありますので、
両方とも、印象的で素敵な記念館でした。



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