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            日常の風景   NO.0146
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温泉の名人

半島というのは三方を海に囲まれている。
なるほど、比較的大きな半島である能登半島も、
くるまをしばらく走らせれば、すぐに日本海か富山湾の海岸線にでる。

今回の2泊3日の旅行は和倉温泉と輪島温泉に宿泊した。
どちらの宿も、露天風呂からは海が近くに見えた。
特に輪島の宿は、目の前に日本海が広がり、波の音がすぐそばで聞こえた。

まだ陽は高い。湯船に浸かっているのはわたしひとりである。
潮の香りがする。
運転に疲れた全身に湯がしみわたる。

海と空とをくっくりと分けている地平線。
海に浮ぶ貨物船はほとんど止まっているように見えるが、
よく見ると数ミリという単位で移動しているようである。

地平線の空側を数羽のかもめが飛んでいる。
海側には白地に黒い模様のあるツバメのような海鳥が弾丸のように直進してゆく。
湯船の波よけにおいてあるテトラポットの上には雀が、
いくつもあるコンクリートの頂点をひょこひょこと飛び歩いている。

いつの間にか貨物船の姿が見えない。
以外に早いスピードなのだ。

そんなとき、わたしに会釈をしながら、ひとりの老人が湯船に入ってきた。
にこにこと顔だけではなく、全身で笑っている。
額はすこし広いが、白髪で風格のある容貌である。

たぶん自営の商人、少なくともサラリーマンではなかった。
サラリーマンには、赤の他人にこのような自然な笑顔を見せることはできない。
ひょっとしたら、息子に商売は譲ったものの、まだ現役なのかもしれない。

その老人。気分よさそうに、目を細め、海を見ながら湯に入ると、
顔を両手でざぶざぶと洗った。
そして中央に湧き出して、豊満な乳房のように盛り上がっている湯の表面を、
右手で愛撫するように、何度も撫で回した。

やがて、くちびるすれすれのところまで湯に浸かり、
「あーーーー」という艶のある声を出しながら、副交感神経を呼び起こし、
無駄な全身の力を抜いて、リラックスしているのがよくわかる。

わたしも温泉が好きだが、こんなふうに素直に表現する人はまれだ。
もし、温泉道というものがあれば、間違いなくこの老人は温泉の名人だと思った。

その名人、最後に人差し指を湯に浸し、ぺろりと湯をおいしそうに味わった。



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sceneryの風景

定年退職して、早や2ヶ月が過ぎました。
わずか2ヶ月で退職後を語るのは早いとは思いますが、
退職後の生活が、こんなに楽しいとは夢にも思いませんでした。

40年も続けてきた、サラリーマン生活が一変するのです。
わたしも人並みに心配はしていました。
想像するのと現実とでは大きなギャップがあるのに違いないだろうと。

ですが、今のところ楽しいことばかりです。
もちろん準備はしっかりとしたつもりです。

すこしずつ、日常の風景を通じて、生活を紹介してゆきたいとおもいますが、
一日の予定というものは、まったく立てませんでした。
立てても守れないことはわかっていましたから。

その代わり、一週間の予定を決めました。
ちょっと工夫のあとが見られるのは、火曜日と金曜日は、
わたしが家事一切を引き受けるという日を設けたことです。

すなわち、その日は、わたしと妻の役割をすべて交換する日にしたのです。
わたしは、週に2日だけ、ハウスキーピングの会社に就職をしたと考えました。
カスタマーは妻ただ一人。
もらう年金を給料だと考えることにしました。

給料をもらって、家事会社に就職したと考えると、
家事ビジネスというは、そんなに難しいビジネスではありません。
いちばんいい点は、すべてのことを自分が決定できるということです。

料理に関していえば、野菜の切り方は不ぞろいですが、
味付けは、レシピーどおりに作ればまず、失敗はありません。
米は、無洗米を使えば、水を入れるだけです。
妻が使わなかった食器洗い機はわたしの当番ではフル稼働。
洗濯機は、洗濯物を放り込んで、ボタンを押すだけ。
掃除は時間がなければ、大きなものを大体かたずけるだけでOK。

週に2日間だけ仕事をすれば、後の5日間は自由な時間が確保できた訳です。

2日と5日とでは、まだすこしバランスが悪いと、
水曜日の昼食はふたりで外食(ファミレスの日替わり定食を食べ歩いています。家で作るより安いかも)
木曜日の夜はふたりで、わたしの「なじみの店」(日常の風景に書いたことがあります)での宴会日です。
土曜日はわたしひとり、大阪に用事をつくりました。朝の10時ごろ家をでたら、
夜の10時すぎまで家には帰ってきません。
土曜日はわたしも自由日ですが、妻も自由日です。

明日の予定はまったく何も決まっていないのですが、
一週間の予定は大体このような感じで流れてゆきます。
割合変化に富んだ一週間があっという間に過ぎてゆく感じがします。



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