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            日常の風景   NO.0158
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ピラミッドの前で

わたしたちが乗ったオンボロのタクシーが、
ごみごみとした川沿いの住宅地を通り過ぎると、
突然クフ王の巨大なピラミッドの一部が見えた。

悠久の歴史をたたえて、砂漠の真ん中にポツリとあるピラミッドを想像していたのだが、
実際はまるで違っていた。
砂漠の反対側は住宅地に密接しているのだ。

底辺は各辺230m、高さ144mに達する世界最大のピラミッド。
間近で見上げると、そのあまりの巨大さにしばらくぽかんとしてしまう。

ピラミッドの前は、世界から訪れる観光客でいっぱいなのだが、
あまり混雑しているという感じではない。
とにかく巨大すぎるほどのエリアなのである。

ピラミッドの周囲をどのように回ろうかと迷っていると、
ガイドブックに悪名をはせている土産売りが早速駆け寄ってきた。

「どこから来た?」というので、
「日本から」と答えると、
「おお、日本はいいところ、日本人は親切、日本人はほんとうの友達」と
やたら日本をほめまくってくれる。

手にしている透明の硝子に封じ込められている金色のピラミッドを、
これは「友情の印だから、お金は要らない」とわたしの手に持たせようとする。
わたしは、そんなにうまい話は絶対にないと思い、決して受け取らなかった。

だが、あまりにも真剣に「お金はいらない」というので、
「じゃ、わたしのボールペンと交換しよう」と持ちかけた。すると、
「いえいえ、とんでもない」と恐縮するばかりである。

そのうち何かに弾みで、ピラミッドをわたしが受け取ってしまったのである。
「じゃ折角だから、どうもありがとう」と別れようとすると、
「ミスター」と後ろからにこやかに声が掛かった。

「このピラミッドは友情の印だからお金は要らない、でも、わたしには3人の子供がいる。
お腹を空かせて家で待っている。だから、わたしには要らないが子供たちにバクシーシーを」と、
堂々と手を出すのである。

わたしは、手口を観察をするために、わざと相手になっていたのであるから、
結局子供たちのためにと3本のボールペンを巻き上げられたのであるが、
なかなかうまい手口だと感心した。

すっきりとした青空に赤茶けたピラミッド。
クリーム色の砂漠の細かい砂の上に、ラクダがいて、
ラクダの上に、白いターバンを巻いた、ひげの濃いアラブ男がすっきりと背筋を伸ばしている。
実に絵になる風景である。

ラクダの男は、そんなわたしの心理を見透かしたように、
「写真を撮れ撮れ」とジェスチャで伝えてくる。
「無料だから」とにこやかである。

写真ぐらいはいいだろうと、シャッターを押すと、素早く横からもうひとりの男が出てきて、
「無料だから、ラクダと一緒に撮ればいい」と有無をいわせず、
ラクダをしゃがませ、記念写真をいっしょに撮った。

そして、ついにはわたしたちをラクダの背中にも乗せたのである。
バクシーシとしてボールペンは渡すつもりだったが、
くどいほど「お金は払わない」ということを確認し続けた。

わたしたちを乗せてラクダが立ち上がると、以外にラクダの背は高いのである。
簡単にはもう降りることができない。
そこで、やおら、ラクダでの観光をすすめてきた。

これもうまい手口である。この状況では断りきれないとあきらめかけたのだが、
ラクダに恐怖を感じた後ろの相棒が、悲鳴に近い大声をあげて騒いでくれたので、
やっとラクダから降りることができた。

あれだけ無料だと堅い約束を交わしたのに、
「わたしにはいらない、このラクダにバクシーシーを」と譲ることがない。
結局、ボールペン2本と使い捨てのライター1個でやっと話がついた。



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sceneryの風景

エジプトではチップ以外に、バクシーシーというシステムが社会に根を下ろしている。
チップは受けたサービスに対して支払うのであるが、
バクシーシの考え方はちょっと違っていて、
貧しいものがお金持ちに対して当然要求できる権利のようなものであるらしい。

だから、チップを支払って、それからなおバクシーシを要求されることもめずらしくない。
だが、慣れて、経験を積んでくるとおもしろいシステムでもある。

たとえば、観光馬車に乗るとき、まず値段の交渉である。
50ポンドと吹っかけてくるのを10ポンドに値切り、
「ノーバクシーシー」と念を押す。
最後に「この馬にもノーバクシーシー」と付け加えると、
御者は声を上げて笑い、交渉は成立するのである。

エジプトへの旅行を今後、考えておられる方がおられましたら、
エジプトの物価は考えられないほど安いです。
50ポンドといっても、日本円に換算すれば1000円ほど。
向こうの言い値をそのまま支払っても高いということはない。
ですが日本人すべてが甘く見られるので、ぜひシビアな交渉をしていただきたい。

エジプト人はみんな日本人に親切です。
道を尋ねたら、必ず、現地まで案内してくれますが当然バクシーシが必要です。

わたしは、家にあったボールペンなどのペン類をごっそり持ってゆきました。
なんと我が家には新品、中古を合わせて30本以上の不必要なペンがでできました。
これらは実にバクシーシとして役に立ってくれました。
100円ショップで購入した3個で100円のガスライターも効果的でした。

エジプトの公務員はあまり信用できません。
ギザには3つのピラミッドがありますが、
観光客が集中するのはクフ王のピラミッド、そしてカフラー王のピラミッドです。
いちばん外れに位置する、ちいさなメンカウラー王のピラミッドにはあまり観光客の姿はありません。

そこにも、ピラミッドの上に登らないようガードしている警備員がいるのですが、
たまたま訪れたわたしたちを見かけると、案内するから登らないかと、しきりに勧誘してくるのです。
いいかげんな公務員でした。



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