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　　　　　　　　　　　　日常の風景　　　NO.0144
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白いタンポポ

西洋人がとまどったときによくやる、肩をすくめて、
両手のひらを空に向けるポーズを取りながら、
わたしはそのポーズ通りの心境だった。

両手が泥にまみれ、ドアのノブに手を掛けることができないから、
家の中に入ることができないのである。

空き地に、夕べから降り続いた雨の水たまりがあるのを見つけて、
そこで、手を簡単にゆすいだ。

家に入ると、洗面所に直行して、蛇口をひねる。
思いもかけず、温かいお湯が出てきた。
給湯器の電源を切るのを忘れていたのだ。

わたしはしょっちゅう忘れる。
でも、今回は忘れたのがラッキーだった。
冷たい手が、加減のいいお湯で温められ、
手のひらで泡立てられた石鹸から、清潔ないい匂いがただよってくる。
なんとなく幸せな気分になった。

外出から帰ってきたとき、家の前のコンクリートから、
雑草が点々と、青々と顔をのぞかせているのに気がついた。

家の前は、側溝としてＬ字型のブロックが敷き詰められている。
ブロックの継ぎ目が、経年によりひび割れ、目立たない隙間ができていた。
その、わずかな隙間に砂埃がたまり、雑草が育っている。

腰をかがめてよく見ると、白いタンポポも一輪咲いていた。
ミニチュアのタンポポのように小ぶりだったが、形は完璧だった。
可憐で、清楚で、花弁だけをみれば、菊の花とすこしも変わりはない。

すこし、気の毒には思ったが、除去にとりかかる。
根が浅いはずなので、簡単にひっこ抜けるだろうと考えたのだが、
これが以外に手ごわい。
根を抜くどころか、わたしの指に嫌がらせのようにねばつく白い液をつけて、
中ほどから折れてしまった。

わたしの手には、どろまみれになった白いタンポポが残された。
無味乾燥なコンクリート砂漠から、健気に育ったタンポポの花。

これが、本物の砂漠から芽を出したのなら、非常に貴重なもので、
その可憐さ、たくましさに感動することは間違いがない。

タンポポにこれほどの生命力がなく、育てにくい品種の花なら、
温室でたいせつに育てられ、肥料もたっぷりと与えられ、
園芸店で高価に売買されたかもしれない。

水たまりにタンポポを落としながら、
この花には、こんな感傷は似合わないとふと思った。
タンポポにはしっかりとした根が残されたのだ。
また、たくましく、ふてぶてしく新たな芽を吹き出してくるのに違いない。

近いうちにまたお目にかかりましょう。タンポポ君。



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ｓｃｅｎｅｒｙの風景

４月１日で、サラリーマン生活は卒業しました。
不思議なことに職場のことを思い出したり、なつかしく思ったりしたことは、
まったくありません。

でも、開放された。ほっとした。せいせいした。さばさばした。という気分でもないのです。
まだ、３週間しか過ぎていないのですが、もう３年ぐらいは経ったような気もします。

もちろん、退屈しているわけではありません。
すこしずつ、一日のリズムも見えてきました。
でも、嬉しくてたまらないという訳でもありません。

どのように表現したらいいのか、水が川上から川下に流れてゆくような、
とても、自然でおだやかないい気分です。

時間が自由に使えて、ゆっくりと流れてゆきます。
贅沢さえいわなければ、年金生活も悪くありません。



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