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            日常の風景   NO.0166
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ヒッチハイク

ニュージーランド北島の有名な観光地、ロトルア郊外にある、
ワイオタプ・サーマル・ワンダーランドは、
地球の地殻を剥ぎ取り、そのまま裏向けにひっくり返したような、
印象深い、雄大な奇観であった。

このあたりが、地球上でいちばん地殻の薄い場所なのだ。
地熱活動で、水は沸き立っており、大小のクレーターがいたるところにあり、
地殻にふくまれているあらゆる種類の化学物質が水に溶け込み、
淡黄色、赤銅色、濃い緑色など、まるでペンキをぶちまけたような、
原色の熱泉が目にまぶしい。

そんな奇観の地熱地帯だが、大小のウオーキングルートが実に見事で、
時間、体力に合わせて、ゆっくりと散策できるように整備されている。

ニュージーランド観光のすばらしいところは、これだけの観光地でありながら、
まわりにいる人は、いつもまばらで、自分たちだけの世界のように感じられる。
なにしろ、国土が日本の3/4もあるのに、人口はわずかに380万人である。

約2時間半かけて、ゆっくりと隅々まで歩いた。
以外に早く、午前中には観光は終わってしまった。
引き続いて昼食も終えた時点で、わたしは軽くため息をついた。

帰りのバスの予定時刻が、16時30分なのだ。
しかも、ここから2kmも歩いて、何んにもない国道に出で、バスを待つことになる。
4時間近くも、何もすることがない。
わたしは、ヒッチハイクをして、ロトルアに戻ることに決めた。

ワイオタプ・サーマル・ワンダーランドの駐車場は、
まわりが小高い丘で取り囲まれていた。
丘の斜面は、白いすすきや、ふわっとした柔らかな草が茂り、
丘の上には、ベンチがあり、大きな木がパラソルに代えて木陰をつくっていた。

初老の男女3人が丘の上で、シートを広げ、ピクニックをしながら
ワインを飲み、楽しそうに談笑していた。
のんびりとしたいい景色であるが、わたしたちはその丘の上のベンチに、
本陣を構え、見晴らしのいいその場所から戦略を練ることにした。

大した戦略ではない。
観光を終え、駐車場に戻って来る、恋人同士ではなさそうな2人連れに、
片っ端から声をかけることにしたのである。
「ひょっとして、ロトルアに戻られるくるまでしょうか?」

5台、6台なかなか、ぴったしのくるまに当たらない。
こういう場面になると、わたしは自分でも案外と思えるほど、粘り強く、くじけない。
ひとつには、断られるときの反応が、押し売りを追い払うように、
にべもなく峻拒されるというケースは1件もなかったからである。

「あら、残念。行かないのよ。ごめんなさいね」とか、
「行かないけど、国道までならいいよ」とか、
ふたり連れだと思って声をかけたのに、後からもうふたり現れ、4人連れだとわかったケースでは、
諦めて帰りかけているわたしに「乗って行け」といってくれたりもした。
だが、わたしに相棒がいるとわかった時点で、「ソーリー」と
残念そうに、気の毒そうにつぶやいてくれた。

隣のピクニックが終わったようなので、期待もせずに、気楽に声をかけてみた。
どうしようかと、一瞬の迷いも見て取れたが、
結局、ロトルアまで乗せてもらえることになった。

実に親切な人たちだった。
オークランドに住んでいて、63歳。まだの現役ポリスマン。
ポリスマンの親戚で、イングランドから遊びに来ていた、同年代のいとこ夫妻。
ニュージーランドはさすが移民の国。姻戚関係もインターナショナルである。

一旦同乗させてもらったあとは、身内のような気楽さで話しかけてくれた。
帰る途中の観光ポイントにもわざわざ、わたしたちのために立ち寄ってくれたり、
ロトルアに着いてからも一箇所、マオリ村の教会に連れて行ってくれた。

実はその場所は、昨日ふたりで夕暮れに見に行った場所だったのだが、
その事実は当然黙っていた。
時間が違うと、教会も、教会から見えるロトルア湖もまったく違った表情をしていた。

名前も知らない親切な人たち。
背の高いポリスマンとそのいとこは、途中で立ち寄った、
硫黄のにおいのする、地熱地帯の灰色の泥と湯気を背景にして、
わたしに微笑みかけている。永遠に。デジタル写真のなかで。



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sceneryの風景

旅の疲れもようやくとれたようです。
生活のペースも、普段の日常に戻りました。

真っ黒に日焼けした顔は、なかなか元には戻りません。
「お父さんシミになるで」と子供たちにおどかされていますが、
いまさらどうしようもありません。

ニュージーランドの写真をわたしのホームページにアップしましたので、
また見てください。
ワイオタプ・サーマル・ワンダーランドの写真もあります。

ニュージーランド北島
http://www.geocities.jp/scenery_jp/newzealand1/newzealand1.html

ニュージーランド南島
http://www.geocities.jp/scenery_jp/newzealand2/newzealand2.html

韓国ソウル
http://www.geocities.jp/scenery_jp/seoul/seoul.html


実は、ワイオタプ・サーマル・ワンダーランドに来るときもヒッチハイクをしました。
これがはじめてのヒッチハイクというわけではありません。
オーストラリアでもやったことがあります。

このときの経験が役立ったというか、ヒッチハイクのポーズを知っていました。
親指を、行きたい方向にピンと立て、軽く振るのです。

わたしたちは、ニュージーランド国内長距離バスのフリーパスを購入していました。
だから、ワイオタプ・サーマル・ワンダーランドも、
一日一本しか運転されていないロトルア−ウェリントン間の長距離バスを利用したのです。

わたしは、バスが止まるところは、観光地のワイオタプ・サーマル・ワンダーランドの前だと思っていました。
だが、それはおおきな誤解でした。
バスが着いたところは、国道沿いにバス停のスタンドがあるだけの辺鄙な場所。
ワイオタプサーマルランドへ行くには、ここから2kmも先だとのこと。
仕方なく歩き出しました。

いい天気だったし、気分はよかったが、現地に着いてからも、
まだまだ歩くのが仕事になる。現地に着くまでに疲れたくはなかった。

だからヒッチハイクのポーズをしながら歩いていると、一台のくるまがすぐに止まってくれた。
オーストリアから来た青年。一ヶ月の休暇を取り、くるまはレンタルしたとのこと。

行きも帰りも、それほど切羽詰った状況ではなく、いざとなれば、なんとかなるという
余裕があったのが、ヒッチハイクに成功した要因だったのかもしれません。



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