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            日常の風景   NO.0174
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家事と音楽

洗濯機から取り出したばかりの洗濯物は、
練り上げられた小麦粉の塊のようである。
それらをひとつひとつ、ほぐして広げ、ハンガーにかけてゆく。

ふと前を見ると、網戸からそよ風が入り込み、
薄いクリーム色のレースのカーテンが揺れている。
透き通ったカーテン越しに、花壇の花が赤、白、黄色と
まるで三色旗のように見える。

最近は水もほとんどやったことがないのに、我が家の野性味にあふれた花壇は、
生命力の強い花だけが生き残り、増殖を繰り返し、今が満開である。
申し訳けなく感じるほど、色鮮やかな色彩で、充分に目を楽しませてくれる。

今日は週に2日と決めた、わたしの家事当番の日である。
相棒は、朝からどこかに出かけていて、家にはいない。
彼女もやっと、フリータイムの時間の使い方に慣れてきたような気がする。

家にひとりという状況の方が、家事はやりやすいし、能率も上がる。
相棒がいないので、わたしは、冷蔵庫の上に置いた、
DVD再生機のボリュームをおもいきり上げた。

再生機からは松山千春の伸びのある高音が耳に絡んだ。
機嫌よく家事をこなすのに、音楽はわたしの必要不可欠なアイテムである。
それも、クラシックではなく(華やかなバロック音楽ならなんとかなるかも知れないが)
圧倒的に昔なじんだ、なつかしいニューミュジックの歌がぴったしである。

松山千春もそのひとりだが、五輪まゆみ、小椋桂、吉田拓郎などもいい。
アップテンポで明るい曲なら、洗濯干しなどは知らない間にかたずいてしまう。
その他には、さだまさし、井上陽水、谷村新司、南こうせつ、
村下孝蔵、荒井由美、中島みゆきなどもよく聴く。

リタイアするまでに撮りためていた、100本以上のビデオテープをDVDに整理しなおして、
はじめて実用的に価値のあるわたしのライブラリーとして甦った。
ビデオテープに録画しているときは、まさかこのニューミュジックの歌が、
将来家事をこなすときのパワーになるとは夢にも思わなかった。
ニューミュジックというジャンルではあるが、もう20年も30年も前の流行である。

わたしの耳は、演歌にもなじまないが、今はやりの歌もよくわからない。
ときどき、断片的に単語としての日本語が耳に飛び込んでくる程度で、
外国語になった日本語を聞いているように感じられる。

わたし達の世代のはやり歌は、詩に人生へのメッセージがあり、
ここちよいメロディ、リズムがベースになって、歌詞が表現されてきた。
歌詞とメロディがほどよく調和していた最後の時代だったのかもしれない。

多分、年をとれば、みんな同じことを言い始めるはずである。
あの頃の歌はよかったと。
若くて元気で感性が豊かなときに聴いた歌は、身体に沁み込み、それが核となって残る。
内にある核に共鳴する歌だけが、こころの琴線に触れたと感じられるのだろう。

DVDからは、松山千春の「ふるさと」という曲が流れてきた。
田舎から都会にひとりで出てきた女性が、夢破れ、
もうふるさとに帰りたいのだけれど、それが言い出せない切なさを歌った佳作である。

わたしの相棒はこの歌を聞くたびに、必ず涙ぐむ。
歌の彼女との共通点はほとんどないはずなのに、歌詞の切なさに共鳴して、涙ぐむのである。

洗濯物はすべてかたずいたので、わたしもしんみりとした気分で「ふるさと」に聴き入った。



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sceneryの風景

早いもので、週2回だけ家事の一切をするという習慣になってから、
もう1年以上になる。
すっかりルーチンとして定着し、わたしなりの手際もかなりよくなった。
退職するまで、家事には一切手を触れなかった人としては、大した進歩だと自画自賛。

ひとつ気がついたことがある。
わたしの相棒は未だにDVDに録画とか再生ができない。
ほんとうに機会オンチだと思っていた。

だが、洗濯機をわたしが扱うようななったときのことである。
最近の洗濯機は非常に便利だが、機能がありすぎて、ややこしい。
風呂の残り湯を洗濯に使うとき、洗濯だけに使うのか、ゆすぎにも使うのか、セットしなくてはならない。

洗剤も、中性洗剤を使用しない場合は、最初にぬるま湯で石鹸を溶かすなど、
洗濯物を放り込むまでに、準備しなくてはならないことが多く、非常に手が込んでいる。

わたしは未だに、メモを見なくては洗濯機は扱えないのだが、
機械オンチのはずの相棒は、洗濯機に関しては、やたら詳しくテキパキである。

料理以外の家事の時間は、洗濯、掃除、買い物、アイロニングを含めて、
2時間もかかわれば、すべてかたずいてしまう。
わたしのいい加減でちゃらんぽらんな性格が、案外家事に向いている。

マーフィの法則にもある、
「めんどうな仕事は怠け者にまかせろ」なぜなら「簡単に終わらせる方法を見つけてくれる」
わたしの家事も正にこの通りである。

掃除でも料理でも見かけがきれいに見えて、いかに手抜きができるかということを
常に考えている。
ズルといえばその通りなのだが、工夫と言い換えられなくもない。

すべての仕事が、自分の段取りで、マイペースで進められる家事。
慣れればそれなりに楽しくできる。
もちろん、家事当番ではない、残りの5日間の方が楽しくて自由な時間であるのは確かであるが、
この2日間があるからこその、5日間の充実だとこころから思っている。



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