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            日常の風景   NO.0172
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ころがるサイコロ

硬質のスポンジでできている、20センチほどもある大きなサイコロは、
持ち上げたとき、手に当たる感触が柔らかで、適度な弾力があって、
いつまでもそのまま抱え込んでいたいような気もした。

表面を覆っている肌理の細かなタオル地は、カラフルな6色の原色。
赤、青、緑、黄色、ピンク、朱色。
真ん丸のサイコロの目がそれぞれの面に貼り付けられている。

そんなサイコロをふたつ、胸にかかえるようにして、
両手で空中にぱっと放り投げ、下に落ちたサイコロが、
運命の数字を示すたびに、両側にいる20人ぐらいの
老人、ボランティアたちから、わっと明るい歓声が響く。

サイコロの目によって、1から12までの数字を
順番に消してゆくだけの単純なゲームである。
出目によって、足しても掛けても引いてもよい。

まるでラスベガスのクラップスゲームのような盛り上がりだが、
ここに大金が賭けられているわけではない。
気まぐれにつくられたチームの対抗意識だけがそのエネルギーである。

ここはいわゆる「宅老所」と呼ばれる、高齢者の集いの場である。
わたしの家の近くにある。
空き家になった古い民家を利用しているため、
友達の家にお茶を飲みにでもきたような、気安い雰囲気がある。

それにしても、いつの間にここでボランティア活動をすることになったのだろう。
まだわずか4回だけ顔を出したにすぎないのに、
もうベテランのような顔をして、なじんでいるのが自分でもおかしい。

ゲームもいよいよ大詰めである。
相手チームの残りの数字は12だけ。
味方チームの残りは10と11。決定的に不利な状況である。

12ならば、2と6、3と4、6と6の3通りの組み合わせがあるのに対して、
味方は11を残してしまった。これは5と6の組み合わせのみである。
わたしがサイコロをころがす順番がまわってきたので、
セーターを脱ぎ捨て、5と6を強く念じながら、サイコロを放り投げると、
最初が5に決まり、もうひとつも、細かく揺れながら6を上にして止まった。

ひょっとすればサイコロを振り続けるのが人生なのかもしれない。
わたし自身も、なんでもない日常から、人生を決定する重要な場面にいたるまで、
もう何万回、サイコロを振ってきたことだろう。

5と6が出で欲しいというような具体的なビジョンがはっきりと描けて、
サイコロを振ったとき、わたしはかなりラッキーな人生だったと思う。

退職後のボランティア活動の必要性はこころから感じていた。
地域社会で孤独でもがんばっておられる老人のために、
ほんのささやかなお返しができる機会がごく自然に与えられたのは、
偶然に振られたサイコロのおかげのような気がする。

ゲームはわたしたちのチームが見事な逆転勝利を飾った。



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sceneryの風景

わたしがボランティアをしている「栄町ハウス たちばな」です。
http://www.shiga-volunteer.net/group/index.php?id=g0254

老人が同世代の老人のお世話をしなければならない時代だと思います。
最初に「たちばな」にでかけたとき、誰が世話をする人で、
誰が世話をされる人かほとんどわかりませんでした。

元気な70代のボランティアが、
脳梗塞の後遺症に悩む60代の人を元気づけているのは実にいい風景でした。

先月に自治会の総会の案内がきたが、今年は役員になる年ではなかったので、
迷わず、委任状を出し、欠席に○をつけた。
ほとんどの家はわたしと同じ行為をしたはずである。

ところが総会の3日前になって、電話がかかってきた。
総会の議長を引き受けて欲しいという依頼である。
そういえば、今までに2、3回議長をしたことがある。

議長といっても、決められた手順に従って、議事を進めるだけのことだから、
気持ちよく引き受けることにした。

だだ、議長は解任のときに簡単な挨拶がある。
そこで、今は15人に過ぎない子供会が、わたしが子供のころは
50人から60人の、大所帯だったこと。

そのときは地域のみんなに世話になったこと。
もう10年もすれば、あのときの子供たちがみんな年寄りになって、
町中に年寄りがあふれるようになるだろうこと。

そして、締めくくりとして、わたし自身の定年退職。
機会があれば、地域社会に貢献したいなどと、
セオリーではあるが、ちょっと格好のいい挨拶をしてしまった。

そして、そのあくる日に、近所の顔見知りの女性から、
このようなボランティアがあるのですが、ぜひ手伝って欲しいという電話が
掛かってきたという訳なのです。

このようにありたいというビジョンがわたしにあって、
サイコロが振られたということになるのかもしれません。



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