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            日常の風景   NO.0197
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地下街のホームレス

大阪の地下街を、はっきりとした目的地がある訳でもなく、
ただ、人の流れに沿ってぶらぶらと歩くのが好きである。
豊穣で贅沢な時間を過ごしているようにも思える。

基本的には田舎者なのである。
お祭りの縁日のような、にぎやかな人の流れがめずらしいのである。

いくら混雑が苦にならないといってもミナミやキタの
雑然とした雰囲気のなかに長くいると芯が疲れる。
活気や猥雑さはそれなりに楽しめるが、
そこは原色の看板だけが目立つカオス(混沌)の世界だからである。

地下街を歩くのが好きな理由は、ある種のほどよい調和があるからだと思う。
だが地下街の看板もヨーロッパのような洗練されたものはひとつもない。
東南アジア的なけばけばしさも見られる。
しかし掲げる場所や大きさがきっちりと統一されているために、
それなりの調和にはなっている。

地下鉄の改札口にもあたる、広場のような交差点には、
大人3人でやっと抱えられるぐらいの、巨大な円柱が林立していて、
地上から降ってくるとてつもない圧力を支えている。

その巨大な石柱のわきに、ホームレスらしい初老の男性が、
まるで死んだように身じろぎもせずに横たわっていた。

何百人もの通行人がひっきりなしに通過してゆく地下街。
地下街の調和は、統一された看板だけではなく、
絶え間ない人々の動きにもあった。

地下街では止まって動かないものは異質なのである。
風景の調和がみごとにくずれてしまう。

へたり込んで話す若者とか、旅行に疲れたのか、
スースケースの上に腰をおろして休憩している老女とか、
デートの待ち合わせの若者でさえ、できるだけ目立たないようにと、
巨大の円柱の一部分に成り切ろうとして、ぴったりと柱に身を寄せている。

ホームレスはただの酔っ払いだったのかも知れないが、
どこか具合が悪くて横たわっているようにも見えた。
ホームレスの周囲だけ、時間が凍りついたまま止まっている。

何百人という通行人が男のそばを通過してゆくにもかかわらず、
だれひとりとして、その男の前で立ち止まる人はいなかった。
わたしも逃げるようにして、その場から遠ざかった。

遠ざかった瞬間は多少気がかりだった。
何か悪いことでもしたような、後味の悪さだったが、
遠ざかる距離に比例して、罪悪感はすぐに薄れた。

しかしながら、そのとき何かできることはなかったのだろうかと、
数日経過した今頃になって思い出すのである。
通俗的な庶民のひとりに過ぎないわたしには、
マザーテレサのような崇高な行為は絶対にできそうもない。

でもよく考えてみれば、携帯電話は持っていたのである。
地下街から顔を出せば、曽根崎警察署も目の前の場所だった。
電話で警察に知らせることぐらいならできたはずなのにと、
反省しつつこの文章を書いている。



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sceneryの風景

NHKの「英語でしゃべらナイト」とか「クールジャパン」という番組をよく見る。
実用的な英語の勉強にはあまりならないが、
外国人の目から見た日本という視点が非常におもしろい。

この間見た「クールジャパン」のなかで、
フランスとルーマニアの留学生が、現在の東京をデジカメで撮り歩いていた。

彼らの興味は、東京のカオスなのである。
日本のカオスを非常な魅力といった肯定的な捕らえ方をしていて、
信じられない思いだった。

彼らが狙うデジカメのアングルは、
近代的なビルがあって、隣に古くからのアパートも残っていて、
電柱も電線も際立っているというような、生活臭のただようカオスなのである。

日本人のわたしにとっては、
ヨーロッパの整然とした秩序がうらやましくてたまらないのだが。



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