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            日常の風景   NO.0194
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冬の薄日

お堀端の横断歩道で、信号が青から赤に変わった。
駅へ急いでいたが仕方がない、自転車を止めペダルを漕いでいた右足を、
いつもわたしが愛用している置石の上に乗せる。

横断歩道前の置石は、わたしが勝手に靴の置石にしているだけで、
ほんとうは車道と遊歩道の境界に設置された、
二本の銀色のパイプをささえている支柱なのだ。

円柱の御影石の先端が地蔵様のあたまのようにつるりとしていて、
もったいなさはあるが、靴の上からでも、なんとなく当たりがやさしく、
足を休めるのに具合がいい。

遠藤周作の有名な小説「沈黙」に書かれているように、
わたしが自転車を休めるときだけ、あたまの丸い慈悲深い御影石が、
わたしを踏みなさい踏みなさいと促しているように感じられるのである。

いつものように、置石はやさしかったが、それにしても今朝は寒かった。
足元を、強い冷気が締めつけてくる。
自転車を走らせる遊歩道の左右にドライアイスでも敷き詰めたかのような強烈な冷気だ。
天気予報のとおり、大陸からの寒気団に日本全国がすっぽりと覆われたようだ。

風はあまりない。空も雲で覆われてはいるが、それほど分厚い雲でもない。
薄い雲に隠れている朝日の位置がはっきりとわかるぐらいである。
厚さが微妙に異なった雲の間を、朝日が透過し、さまざまに反射しているのが、
見事なグラデーションの効果を作り出し、赤いグラスのように細長く円錐形に伸びている。

もうすぐ信号が青に切り替わりそうになったとき、
偶然、薄雲に割れ目ができて、朝日が直接わたしの頬に差し込んできた。

寒さに凍えながら、ジワリと感じる御影石の精神的なぬくみより、
わたしには、このような物理的で直截的なあたたかさの方が、
よりわかりやすくて、ありがたい。

地球温暖化などを考えると、暖冬を無条件で喜んでばかりはいられないが、
日々のくらしのなかでは、やはり、あたたかい冬は過ごしやすいのである。

極寒に覆われたなかで、必要なところにだけピンポイントで陽のひかりが当たる。
ひょっとすれば、今朝のような天気が冬の理想形なのかも知れない。



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sceneryの風景

百人一首に収められていような、有名な和歌は別にして、
わたしは万葉集の和歌を原文で読んで、感激したことはほとんどありません。

正直なところわたしにはさっぱり、何が書いてあるのか、
どのような意味なのか、何を作者は表現したいのか、まったくお手上げなのです。

古典の素養が全くない哀しさですね。

しかし最近、1日に5分間だけ、万葉集に触れるのが習慣になりました。
読むのではありません。NHKのテレビ番組「日めくり万葉集」を見ているのです。
毎日録画して、好きな時間に見るようにしています。

歌にふさわしいすばらしい映像を背景にして、文字で歌が紹介され、
女優の壇ふみさんが朗々と歌を何度も読みあげる。
その歌が好きで、詳細にその歌の感想を述べる人も日替わりである。

万葉集を愛し、これほど深く歌を理解している日本人が多いのにも驚かされたし、
その感想を聞いてから、最後にその歌をもう一度味わってみると、
わずか5分間で劇的に印象が変わっている。

万葉集の一句一句に、素直で、素朴で、強烈なメッセージがあり、
感想を聞けば、すべて納得できることばかりなのである。
わずか5分間のこの落差、カタルシスに近いものがある。

残念ながら、今のところ、この番組はNHKのBSハイビションでしか見られません。
月〜金 AM6:55〜7:00 です。
もし、家のテレビがハイビションを見られる環境でしたら、お勧めします。



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